君が居る今、私の知らない過去
□笑顔の裏側には
1ページ/4ページ
クスクス クスクス
あはははっ
声が聴覚じゃないものから街を歩く人達、特に2人以上の集団から“聞こえてくる”。“自分を笑っている”。
胃の当たりがキリキリと痛む。頭に鈍痛が走る。
動悸、息切れ、目眩、嘔気。
有紗は思わず目を細めて口元を覆った。
「(あー……心因性だ)」
朝食をとらなくてよかったと口の中の酸っぱいものを無理やり飲み込んだ。吐き出してしまいたかったがヴェネツィアを自分の胃液で汚したくはない。
じわりと涙が出てきたが、それが生理的なものか、感情的な物かは分からなかった。フィディオがまだ寝ていたので、ジャンルカに言伝して外に出ていたのが正解だったと息を吐いた。
「誰か、助けてくれないかな」
呟いた声が、重さもなくヴェネツィアの水に沈んでいった。
そして浮上したのは携帯の着信音。
〜♪
着信は源田幸次郎だった。
「! はい!もしもしっ」
『有紗、速かったな。携帯が海外に対応していて良かった』
「幸次郎」
『ああ、今イタリアだってな。おばさんに聞いたがどうだ』
「…楽しいよ」
『………そうか。
大丈夫か?』