君が居る今、私の知らない過去
□笑顔の裏側には
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ガチャッ
「あれ、早かったな」
ジャンルカは先程出て行ったばかりなのに帰ってきた友人の表情に首を傾げた。
朝出て行った時とは表情が違う。
「何かあったのか、フィディオ」
有紗を追ったフィディオが、有紗を連れて来なかった事と底知れぬ暗い表情に思わず目を細めた。
瞳孔が開ききり、瞳自体は揺れている。
「と……れる…有紗が、」
「は?」
「有紗が盗られる…!」
有紗が源田と話す内容を聞いて、フィディオの思考回路は深く深く暗い色をしていた。
そして冷たいくせに、火傷しそうな思考だ。
「(ドライアイスみたいな奴だな…気化しないが)とられる?誰に」
「“盗られる”んだ。分からない、みんなだ」
無表情で瞳孔を開いたまま、唇に親指、人差し指、中指を触れさせた。ボソボソと弱いながら、確かに冷たすぎる温度を持っていた。
「盗られるもんか、有紗は俺だけのものだったんだ…俺だけの、有紗自身が言ったのに、何で今更記憶喪失なんて…」