ワンだふる・でいず
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夏樹はベッドの上に座ったままおもむろに寝巻であるTシャツとショートパンツを脱ぐ。靖友以外いないこの家では女性らしい恥じらいも何もない。色気のない下着姿のままベッドを下り靖友の頭を撫でる。そしてクローゼットからまた色気のないパンツとシャツを適当に着た。
「靖友、昨日もらった鹿肉が凍ってるよ」
『おー、やっと肉喰える。腹減ったァ』
「寝坊しちゃってごめんね」
『いいよぉ別にィ』
2階の寝室から1階のキッチンに降りて靖友用にと準備した冷凍庫を開ける。猟友会がくれた獣肉を一度凍結させて寄生虫を殺すのだ。狼犬の顎は強い。凍ったまま肉を噛める。
身体の大きな靖友だが犬は犬である。豊かな毛がある尻尾を左右にぶんぶんと振って夏樹の周りを飛び跳ねる。本当は飛びかかりたいのだが、靖友は賢くむやみやたらに夏樹に飛びかかったりはしない。
リビングから繋がるバルコニーに出て靖友用にある鉄製の皿にその凍った鹿肉を、もう1枚ある皿にミネラルウォーターを入れる。
「お座り」
『はやく!早くしろよ夏樹チャン!』
「ふははは、可愛い顔だな。待てだよー」
『ぐおおおおお!早くしろっての!』
「ん、いいよ」
『肉だぁぁぁぁ!』
主人からの許可が出ると靖友はすぐ肉に喰らいつく。その様子はまるで本物の狼のようで、夏樹はニコニコと笑いながら頭を撫でる。食事中に触られて機嫌を悪くするようなわがままにはさせまいと小さなころから食事中に頭を撫でるようにしていた。