ワンだふる・でいず
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「よかった、」
「それで、草薙さん。この子、この後どうしますか」
「その、この子マイクロチップとか、」
「入ってませんね。この子、多分狼犬です。調べないと分かりませんが、ハイブリットにも見える顔です」
「捨て狼犬なんて、いるんですね」
「心ないブリーダーはいるものです。金儲けだけの人間には、この毛色が黒くて骨格の細い彼は無駄飯食らいと思えるのでしょう」
この子犬は栄養失調を無視しても狼犬の割に身体が細く、毛色に黒が多い。狼犬といえば人気の犬種ではあるしブリーダーもしっかりとしている。が、そうして生まれてきたわけでない犬もいる。もしかしたらそれで捨てられてしまったのかもしれないと獣医が言った。
胸糞悪くなるような現実はいくらでもあるのは知っているし、それは目を背けたくものであるのも仕方ない。
全てを救えないのも知っているが、目の前の彼を見捨てる理由でもない。
「私が引き取ります。ワクチン等、お願いします。去勢は…まだいいので」
「そうですか。それは、よかった。ではまた明日にでも」
「お願いします。 また明日ね、仔犬くん」
ゲージ内で眠る子犬は眠ったままだが、とりあえず穏やかに上下する身体だけで愛おしくなってほほ笑む。
「(名前、考えなきゃ)」
雨音の聞こえる帰り道ならきっと素敵な名前が浮かぶだろう、と少し足取りも速く帰宅していった。