ワンだふる・でいず

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「やあ、《靖友》。具合はどうかな」

『誰だ、テメぇ』

「はは、いい唸り声だね。元気そうだ靖友」

『………』


スンスンと鼻をひくつかせて匂いを嗅ぐと、意識がもうろうとしていたときに感じた匂いだと分かる。雨に曝されていたはずが突然温かいものに包まれて感じたそれ。
とりあえず牙をむくのは辞める。もしこの匂いが本当なら彼女は命の恩人かもしれない。そんな相手に危害を加えるほど自分は恩知らずではない、と思っている。

「勝手に名前をつけてごめんね。名前があったほうが良いかなって」

『…やすともぉ?』

「《靖友》だよ。友を多くもち安らかであるように。トモヤスより音が気に入ってるんだけど、どうかな」

『…いや、何それ。なんであんたが名前とかつけてんのぉ?』

靖友と名付けられた犬が夏樹をジッと見つめる。
混乱していたのだ。

自分は骨格が細く、気性も荒い。しかも親に似ず毛に黒色が多いため売れないと判断された。毒入りだろう餌を口にせず、隙をみて逃げて力尽きていたのである。
それなのに、今自分は人間に助けられ飼われようとしているのだろうか。人間に勝手につくられて、勝手に殺されそうになってどうして信じられる。けれど、確かに助けてくれた。穏やかにほほ笑んでくれている。

混乱して動けない仔犬の背中を優しく撫でると、彼は驚きはせず夏樹を見上げた。どこまでも優しい手だ。


『(この女と、暮らす…)』

「うちに来てよ靖友。庭も広いし、家もなかなか大きいし、猟友会の人とも友達だからお肉も食べれる。だからさ、お願い」

『……しゃあねぇなぁ!』


撫でられていた手に頭をグリグリと押し付ける。

夏樹はパァ!っと表情を明るくして靖友と名付けた新しい家族を抱きあげた。大型犬の仔犬らしくズシリと重く、昨日より熱の塊を感じる。両手で抱えられる靖友に頬を擦り寄せる。少し堅い毛が心地いい。


「よろしくね、靖友」

『…ん』


NEXT 2015.5.15
―――――――
家族になりました。もちろんワクチンは元気になってからやりました。
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