ワンだふる・でいず
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靖友はなでられながら、自分の大好きなご主人の言葉に少しだけ呆けていた。まさかそんなことを夏樹が言うとは思わなかった。
なんとなく嬉しいような、悲しいような。
犬だから、と諦めるこの気持ちがまた揺らぐわけでもないがもったいなかったな。っとも思う。
「…獣人…狼の獣人なら、ゆっくり恋に落ちたりするものかな」
「!いい!いいですね先生!それは乙女心がキュンキュン過ぎます!」
「幹さんは編集者さんですよね?どうしたんですかテンション」
夏樹が若干引き気味であることに気づいてはいたが、寒崎はもう止まらなかった。その場で班長と編集長に連絡をとると夏樹に向かって親指を立てた。なんてきらきらしているのだろう。
「OKでました!プロットできたら送ってください」
「分かりました。出来上がり次第、すぐ」
「イラストレータさん何人か候補挙げときますね!」
興奮が冷めやらぬ様子の寒咲はまた連絡します。と言って夏樹の家を去った。夏樹は仕事用のデスクトップ型ではない、仕事用ノートパソコンを膝に乗せてソファに座った。プロット作成をするらしい。このプロット作成の作業は夏樹の特に苦手とする作業だ。キャラクターの動きに任せて作品を書く夏樹にとって、あらかじめ作品の流れを全て書くというのは苦痛に近いうえそれでOKが出たとしてもキャラクターが展開を変えてしまう時があるのだ。それをして出版社側からクレームが来たことがないのはそれが素晴らし展開になるからである。それでも、書かなくてはいけない。
「世界観から考えるか。 靖友、主人公は靖友だからそばに来て」
『言われなくてもいるよォ』
「どうしようかな。靖友がかっこよくなる世界がいいなぁ、ファンタジーにしちゃう?それとも近未来系…王道がいいかな」
楽しそうにしている夏樹を見上げて靖友は尻尾を振った。振りたくなくても、今日は一日中左右に振れることだろう。
『(夏樹ちゃんの理想のタイプが俺とか)』
悲しいうえに虚しい話だが、嬉しささはそれの比較にならないほどに溢れている。
自分が人間だったら夏樹は自分を選んでくれたのだろう。番いになってくれたのだろうか。
『(あー…ままならネェ)』
NEXT 2015.7.7
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種族が違うので恋をしたりはしないけれど、同じだったなら。とか淡く思う乙男犬。犬は人間に発情できるらいいけど、恋はするんでしょうか。