ワンだふる・でいず

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今日はお留守番おねがいね、と夏樹が朝家を出た。エステだなんだと言いながら結局特に着飾ることもなく薄いメイクに少しだけおしゃれをして出て行った。いつもと違う少しサラサラと粉っぽい指先は花のような薬のようなにおいがして思わず舐めようとして夏樹に嫌がられた。そりゃ美味しくはないけど。
彼女が家を出たのは朝早く、もう夜になろうとしているからずいぶん時間は経っているのではないだろうか。そろそろ帰ってくるだろかとソファの上で丸めていた身体を伸ばすと何かソワッとして玄関に向かう。
玄関の黒いマットの上でお座りしていると、思った通り大好きな夏樹がカギを開けて扉を開けて帰宅してきた。


『おかえりィ!』

「………」

『???』


いつもはこうやって自分が待っていれば抱きついてきて、しかも仕事の帰りとなれば毛の中に顔を埋めてゴロゴロと転がりだしても別段おかしいことではない。そんな彼女が今日は普通に靴を脱ぎ、ただいまも言わない。どう考えてもおかしいだろう。
少し大きな声で吠えると、やっと気付いた夏樹が呆けた表情のまま靖友の頭を撫でる。


「ただいま、靖友」

『…なんか、くさい』

「う…うぅ…ぐぬぅぅぅ…」


おかしなうめき声を出しながらしゃがみこんだ夏樹はそのままずるずると靖友の首を抱きしめた。いつもと違う匂いは仕方ないだろう、握手会だったのだから。それにしても一人、濃い匂いがある。とりあえず少し心配するように鼻を鳴らす。
愛犬を心配させてると気付いた夏樹はゆっくりと立ち上がり太もも2回叩いた。教え込まれた『ついておいで』である。リビングに一緒に移動すると、夏樹はもう一度ソファにへたり込んだ。


『どうしたのホント』

「どうしよう靖友」

『ん?』

「ううううう…一目惚れした…」

『…はぁ?』



NEXT 2015.11.8
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お話がやっと進展していきます。
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