ワンだふる・でいず
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《すっごい好評ですよ!》
本日寒咲第一声の電話が聞かれたのは連載が始まって数カ月だった。しかしもうこの話は何度もしてきたことだ。正確には6カ月か。もうすぐ夏樹は歳を一つ取るし靖友もとっくに1歳になった。もともと大型犬で顔が大人びていたためか成犬になても顔はあまり変わらず、相変わらずかっこいい愛犬である。
「ありがとうございます。一巻発売決まったんですよね」
《えー、ちょっと適当すぎませんか。この間見本本送ったじゃないですか》
「イラストや装丁、帯までどストライクでした」
青八木のイラストは繊細な線に鮮やかで爽やかなパステルカラーが美しく、帯は夏樹が敬愛する作家の煽りが入っている。最高の出来と言っていい。
発売日が来週だと言っても発売されれば夏樹の手を放れた話だ。
ヤストモ君、もといヤアト君になっても彼は夏樹の中でヤストモ君のまま動き、アキちゃんにゆっくりと興味を持ち始めている。
「本当にありがとうございます。寒咲さんの助言のおかげで書けたようなものですから」
《いいえー、凄いのは先生ですよ!で、1巻の発売記念にサイン・握手会しませんか》
「……寒咲さん、私あなたのその唐突さがどうも慣れません」
《新しい刺激ッて大切だと思うんです。横浜の○○書店▲▲店で、やります》
決定事項じゃないですか。と言いそうになったが、ソファに座る自分の膝に顎を置いて首をかしげている靖友に癒されて文句は言わない事にした。靖友の鼻筋をカリカリと指先でくすぐる。気持ちよさそうに目を細める靖友を見ていると文句やイラつきは萎んでいく。