ワンだふる・でいず

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「あ、そうだ裕介くん」

「巻ちゃんか! 犬を連れていったのだろう」

「真護くんか」

「真護君にはおもしろい話があってな、真護という名前は巻ちゃんの部活の主将の名前でもあるんだ」

「え」


では巻島は自分の主将の名前を飼い犬につけたということだろうか。たしか東堂も巻島も自転車競技部で主将はもちろん男子だったはずだ。つまり、巻島は、


「い、インタビューしたい」

「こらこらネタにはならんぞ。お兄さんがはじめ飼うつもりで『Sing』 ってつけたんだが語呂が悪いとお父上に叱られたらしくて『O』をつけて『真護』になったそうだ。お兄さんの仕事が忙しくなって仔犬の真護くんを巻ちゃんがあずかったそうだ」

「あ…なるほど」


別にそういうあれではなかったのか。と何故かしょぼんとした夏樹の頭を軽く叩いてしまいたいような欲望が出た東堂だが、とりあえずそうはせずにため息だけを吐いておいた。



新しい作品を読んでみて、もしや夏樹が恋をしたのでは。っと感じた。正確には本を出した後のようだったが、恋をする準備は執筆中にできていたのではいだろうか。
あの恋が芽吹く前の色鮮やかで香ってきそうな甘い描写。主人公はもちろんなのだが、特にヒロインのアキから感じとれる感情は鮮やかだった。どことなくアキは夏樹に似た少女で、友人の意外な恋愛観の一面を垣間見てしまったようでドキドキしたものだ。


「…なあ夏樹、『憂うる狼神話』のアキはお前がモデルだったりはしないか」

「っ」

「は」


 
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