ワンだふる・でいず
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息をのみこんだ夏樹を見ると、彼女の顔が真っ赤になっていた。口の端からカプチーノが垂れてきそうだったが、何とか飲みこむ。何故彼女はこんなに赤い顔をしているのか。
「ど、どうした」
「恥ずかしい…世間に自分の理想の人と自分みたいなキャラクターの恋愛を書いてるとか、心底恥ずかしいんだ。友人に気づかれるなんて、もっと恥ずかしい」
「…」
彼女の恋愛を垣間見てしまったようで、というのはあながち間違いではないようだ。
こんな彼女はそうは見れないし、この際色々聞いてみてしまおうかと東堂は笑う。
「じゃああの狼は好きな男か。ヤアトだったか」
「あれは、その、うちの愛犬」
「愛犬…ああ!巻ちゃんが言っていて驚いたぞ」
「え?なんで」
「あれだろう、『靖友』。巻ちゃんも後から気付いたそうだが、同じ名前の男が俺の部活にいたんだ」
「ほう!真護くんといい、うちの子といい、偶然はあるね」
「偶然か…ふむ、偶然と言えばあの新作の、狼は、その友人と似ていたんだ、性格が」
「ふうん、それこそ凄い偶然ね」
「……」
そこまで言って東堂は口元を覆って大きくため息を吐いた。
「…しかしあの時のあいつは…本当に…どうなって…」
「?」
何かを考え始めたのか口からぶつぶつと何かをこぼすが、夏樹にはよく聞こえなかった。聞こえないということは聞かせたいわけではないということだろう。だから首をかしげただけで特に何も言わず東堂の言葉を待った。
たっぷり10秒後、東堂はにっこり笑った。
「なんでもない。いつかきっと全て分かるだろう」
「ふうん、東堂が言うならそうなんだろうね」
「ああ!で、夏樹。新作の本にサインもらていいか。姉から頼まれているんだ」
「若女将がかい?光栄だよ」
東堂の思考は夏樹には分かりようもない。が、東堂尽八という男を信頼してもいいことだけは知っている。
だから夏樹はただ何も言わず新品の新作と、新作なのにもうすでに読み癖のついた本にサインをした。
NEXT 2015.12.20
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東堂出したら楽しくなってしまいました。そして多分、東堂はヒロインが好きでした。いつかその話も書きたいです。