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□ありがとう、ありがとう
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頬に光ったそれは
貴方の涙ですか?


思えば3年前、大きな期待と不安を抱えて真新しい制服を着てこの門を潜った…とか、不安に思っいた頃からは随分と成長し…など卒業式らしい言葉が飛び交う。無論、卒業式だから飛び交っているのだが、そんな言葉は聞き飽きた。コクリコクリと首が上下に揺れ始め、いずれは夢の中へダイビング。長たらしい卒業式の祝辞が遠くに聞こえた。校門の近くに植られた梅の木が白やピンクの梅の花を咲かせるこの季節。やはりまだ冬の名残がある3月は肌寒く、僕は腕を摩った。

「…何、泣いてんですか。酷い顔してますよ」

『酷い顔なんて、元々だ馬鹿野郎…っ』

「それもそうですね」

『酷っ』

「自分から言ったんでしょう」

それもそうですねと言い返したら、真似しないでくださいと頭小突かれた。何なんだちきょう!こんなくだらない会話の途中でも、最後なんだと思ったらなんだか切な過ぎて、ただでさえ溢れてた涙の量が増した。暖かいクラス、机があって椅子があって少しうざい先生がいてみんながいてお菓子とか摘んだり雑誌を読んだり、漫画を貸し借りしたり。あぁ、この光景もやっぱり最後なんだ。段々空になっていくロッカー同様、クラスも空になっていく。

「…全く、泣き虫ですねぇ」

『うるさ…い』

「ほら」

差し出されたハンカチ。引き寄せられた腕、暖かな抱擁。いままで友達だと思っていたアレンに少しときめいた瞬間だった。結局ものの数分で泣き止んだのだが、アレンは一向に離してくれる気配が無い。それどころか強くなる一方の抱きしめられる力。離してと言っても離してはくれない。ふと耳に過ぎる小さな啜り泣く声。

『…全く、泣き虫はどっちよ』

ため息をつきながら、自分より幾分か背の高いアレンの大きな背中に腕を回す。ぽんぽんと赤ん坊を慰めるかの如く背中を軽く叩いてやった。





(不意に離された体)
(見上げれば)
(キスされた)



できることなら、優しくなんてされたくなかったし、優しくするつもりもなかった。だって、離れたくなくなっちゃうから。ずっと側にいたい、なんて我が儘になってしまうから。唇に残された微かな温度がじれったかった、なんて言えるわけがない。






09.03.09

END.

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