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□レクイエムを聴いて
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ねぇ、聞いて
聞いて
そうやって子供の様に僕の手を引っ張る君の姿を見て、考え事をしていた僕のしかめっつらは、いつの間にか綻んでいたのが不思議だった。よほど聞いてほしい話しなのか、はたまた僕に構ってほしいだけなのか、わからないけど、同じ言葉を繰り返す君の話しに耳を傾ける。
「聞いてほしい事ってどんな話しなんですか?」
隣に座る君はきょとんとした顔をしてから、ふわりと優しく笑顔を浮かべた。そして口を開ける。そんな一瞬の動作の筈なのに僕にはスローモーションの様にゆっくり、ゆっくり、と見えてしまって、思わず目を見開く。綺麗な横顔が目に入ってくる。
『最後、なの』
唐突過ぎる一言。何が最後なのか、僕が理解するには難し過ぎる主語がない言葉。僕に聞いてほしい事とは、そんなに暗い話しだったのか。そう思うと、僕は君から顔を背けてしまった。そしたら君はさっきとは全く逆の表情をして、僕の両頬を掌で包み、無理矢理目を合わせてきた。
『背かないで聞いていてほしいの、』
「は、はい…」
必死な眼差しを浮かべる瞳からは綺麗な涙が一筋、頬を伝う。何故泣くのか、僕にはわからなかった。
レクイエムを聴いて
(私が伝える)
(最後の言葉)
一番にあなたに伝えておきたかったの。
09.10.17
END.