魔律短編夢
□背くらべ
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「ちょっとヨイチ、そこ立ってて」
「?」
オレは彼女の言われた通り、立っていた。
すると彼女はオレの隣に、次々と本を積み重ねてゆく。
なんだなんだ?何を始めるつもりなんだ?
彼女は自分の手が届く限界まで本を積み重ね続けた。
彼女は背が低い。限界はすぐに来た。
すると彼女は積み重ねた本をほったらかして何処かへ行った。と思ったら椅子を持ってきた。そしてその椅子の上に立って、更に本を積み重ねてゆく。
「これでよしっ!」
オレの胸辺りまで積み重なった大量の本。
すると彼女はまた何処かへ行き、今度は机を持って来た。
椅子から机にのぼり、そして机から大量に積み重ねられた本に彼女はそっとのぼる。
「おいおい……危ないぞ」と警告しても聞く耳を持たない。何かに夢中な彼女はいつもこれだ。
「おっし!」
危なっかしく本のてっぺんにのぼった彼女は嬉しそうな声をあげた。満面の笑みだ。
「ヨイチより背が高ーい!」
……彼女の今までの奇行が理解出来た。
「そんなにオレより背高くなりたかったのか?」
「うん!」
彼女は大きく頷いた。
と、それが原因かどうかは知らないが、本の山がバランスを崩した。
「っと!」
間一髪。
本の雪崩が襲う中、オレは彼女の身体を見事に受け止める事が出来た。
「……あれ?痛、くない」
「オレがおまえを守ったからなっ♪」
いつもの余裕の笑みを浮かべてみせたが、正直キツイ。雪崩は想像以上に痛かった。
……ま、コイツを守れたから良しとしよう。
「……ありがとヨイチ」
「いいっていいって♪」
オレはそう返し、お姫様抱っこしてた彼女を肩車した。
「え、ちょっとヨイチ!もう大丈夫だからおろして!」
「オレより背高くなりたいんだろ?こうしたらオレより背高いじゃん♪」
「うー……確かに……」
彼女は珍しく反論しなかった。
その日はずっと、彼女を肩車。
その日はずっと、幸せだった。
背くらべ
(いっけー!ヨイチ号!)(え゙……)
End.