魔律短編夢

□背くらべ
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今日もいつも通り図書室へ。
そして今日もいつも通り彼女がいた。
声を掛けようかと思ったが、彼女の姿を見た途端口から飛び出した言葉は彼女の愛称などではなく、驚きと困惑が入り交じった疑問形の言葉。

「……なに、やってるの……!?」
「あっ、エンチュー!」

彼女は“そのまま”僕の方にやって来た。フラフラと足取りがおぼつかない。
それも当たり前。だって彼女は、“爪先立ちしたまま”僕の方にやって来たからだ。
僕との距離があと3メートル程というところで彼女はバランスを崩した。間一髪僕は彼女を支えた。

「あ、ありがとエンチュー……!」
「い、いいけど……何で爪先立ちで歩いてるの?」
「こうしたら、背伸びるかなって」
「…………えと、」

何て返せば良いのだろう。
僕には爪先立ちで背が伸びるとは考えられないし、だけど期待に顔を輝かせている彼女にそんな事言えないし、いやでももしかしたら、爪先立ちで歩く事によって背が伸びるという事は何かしらの研究で実証されていたりするかもしれない。
僕の心中なんて知らずに、彼女は「ん〜でもやっぱエンチューには届かないかあ……」とか呟いている。
何にしろ、僕には頑張れとしか言いようがなかった。

「あたし、今日一日は頑張ってこの状態で過ごすね!」
「う、うん……応援してるよ」
「ありがと!じゃ、本取りに行ってくる」

そう言って彼女は僕から離れ、再び爪先立ちで歩き出した。後ろから見てると、本当に危なっかしい。
僕は何だか心配なので彼女の後ろに付いて行った。またこけやしないかとヒヤヒヤしている反面、またこけて欲しいかもと心の何処かで思っている自分がいた。……こういうの、下心って言うんだっけ……。

「ぅあ、足つった!」

彼女の叫び声に僕の意識は現実に引き戻された。僕は慌てて床に倒れかけた彼女を助けた。
そこでさっきからずっと思っていた疑問を心の中に投げ掛ける。

……彼女、こんなキャラだったっけ?

……わかった。
絶対ヨイチに汚染されたんだ。そうに違いない。

今度から、彼女の近くにヨイチが寄り付かないようしっかりガードしなきゃ。ね?



背くらべ

(……よっし直ったー!レッツリベンジ!)(ま、まだ爪先立ちし続けるの!?)




End.
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