Novel
□白と黒の背景
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…またあいつの夢を見た。
俺が目を閉じ、それから安らかな眠りに繋がるなんてことは、この牢獄に入って以来なくなってしまった。
自分の記憶を否定されること…しかもそれが大切な人に形作られた記憶ならばなおさら、それは辛いことだ。
カーティ。
弟であるお前がこの世にいないなんて…はじめは信じられなかった。
そんなことを口にする看守らには、殺意すら芽生えたこともある。
それぐらい俺にとって、カーティの死は現実味がないほどに辛かった。
今思えば、カーティの死を否定することに躍起になっていたのかもしれない。
俺の腕には、カーティの死を口にする看守にたてついた結果が、生々しくいくつも残っている。
…しかしそれは、“ボリス”という男によって変えられた。
ボリスは目付きの悪い、痩せた狙撃手だ。
監獄に入って数日後、ほぼ毎日のように俺に会いにくる。
この男は、カーティのことを知っていた。
カーティの死すら受け入れられない俺にとって、ボリスの訪問は疎ましい以外の何物でもなかった。
だが何故だろう。
彼と会う度に、カーティの死という“事実”が、どんどんはっきりしていくような気がした。
それが何故か、そしてあいつが死んだ理由なんて分からない。
ただ、カーティは死んだのだ…。
その事実だけが、今の自分の頭の中にある。
ボリスという男は、今日も来るのだろうか…。
あいつが何を目的に来ているのか分からない。
しかし、この閉じられた空間で行き来する彼と、繋がりを持っておきたい気持ちもあった。
しかも彼は、カーティの死について詳しく知っているはずだ。
…例えばカーティが殺されているならば、俺はそいつを殺すだろう。
どんな手段もいとわずに。