S.S.

□拍手文1
1ページ/2ページ

コプチェフはぐらぐらする頭を抱えて、身体中に走る痛みに耐えながら起き上がる。
背中にはバラバラになったラーダの部品。
自分の下にもがらくたが積み上がっており、不安定この上ない。

コプチェフはため息をつきつつ、自分に被さっている部品を退かす。

またあの2匹を逃してしまった。

ある脱獄犯を追うようになり、ラーダが何度潰されたことか。

ボリスも自分も、よく無事でいられる…。

そういえばボリスは?

まさか違う所に飛ばされたままのでは?

今日も派手に赤い奴がやってくれたが、自分はほぼ無傷。
だが相棒のボリスがいない…。


「…おい…重いからどけ…。」

突然自分の下にあるラーダの一部から、くぐもった声。

もしかしなくとも、これはボリスの声?
まさか相棒を自分の真下に…つまりは下敷きにしていたとは。

コプチェフは慌てて起き上がり、下にあった部品を持ち上げる。


「ボリス!?大丈夫か?!」

下敷きにされていたボリスも、自分に積まれていた部品を下から動かした。

そんなに重い部品ではなかったようで、すぐにコプチェフは相棒の顔を見ることができた。

「てめえ…重いんだよ。」
顔に傷をつくったボリスが、不機嫌この上ない表情をしていた。

「ご…ごめん。まさか下敷きにしてたと思わなかった。」

瓦礫から這い出そうとするボリスの手を取ろうと、コプチェフが手を伸ばす。

土と血にまみれた手を出し、ボリスはコプチェフの手につかまった。
コプチェフが手をひこうとしたその時、ボリスが顔をしかめる。

「?どうかした?」

「痛い…。」

ボリスは手を取られたまま、動かずにボソッと呟いた。

「えぇ?!どこが?!脚?腕?!」

「…脚…。」

考えてみれば、ラーダごと飛ばされて無傷でいる方がおかしい。コプチェフは運良く、かすり傷程度だが。

脚が痛いということは、きっと立ち上がれないのだろう。

コプチェフは前へ踏み込んで、ボリスを抱え上げようと腕を引き寄せた。

「ちょっ…!何すんだてめえ!!」

いきなりコプチェフから抱き寄せられ、ボリスは喚いた。
コプチェフから身を引き剥がそうとするも、脚の痛みでうまくいかない。


「ちょっとじっとしてて、ボリス。」

「うっせえ!何で野郎に抱かれないといけねーんだよっ!」

「だって、こうしないとボリス出れないじゃん。」

「いい!自力で出る!ハゲ!!」

ハゲとまで言われてしまった…。
ボリスと働き出して3ヶ月ほどたったが、ハゲと言われたのは初めてだ。

普段クールなボリスからは、信じられない程に子どもじみたことばだ。
普段クールなボリスからは、信じられない程に子どもじみたことばだ。

コプチェフは笑いを噛み殺しながら、ボリスを抱えた腕に力を込めた。
相変わらず軽い体だ。
ボリスの体を引き上げると、ガタガタと音がして、ボリスはやっとラーダの残骸から解放された。

ボリスは仏頂面で何も言わない。

さすがに助けられた手前、ハゲなんぞ言えない。

コプチェフはボリスを座らせ、ボリスの脚に目を移す。

左足の脛付近が黒く滲んでおり、出血しているのが分かった。

「ボリス、まだ痛む?」

「…どうってことねえよ。」

「いやいや、これは結構深いよ?…はい。」

突然くるりとコプチェフが、広い背中をボリスに見せた。
おぶされという意味であることを、瞬時にボリスは理解した。

「てめえ!ガキ扱いすんじゃねえよ!」

「だからさ〜、そんな無理してもどうせ歩けないんだし、ここは恥を捨てなって。」

「絶対お断りだ!」

ボリスは手をつき、まだ動く右足とで体を起こした。

「俺は1人で帰るぞ!」
と、ボリスは足を引きずりつつしゃがんでいるコプチェフから離れた。

何でそんなに見栄をはるのか…。

必死すぎるボリスが何だか微笑ましいように思え、コプチェフはわざと何も言わずにその場にいた。

「先に帰るぞ!」

そんな強気な言葉を吐き捨てずるずると先に進むボリス。

するといきなり前につんのめり、ボリスは転んでしまった。

「ボ…ボリス大丈夫?!」

まさか転ぶと思わずに、コプチェフは慌ててボリスに近寄った。

「い…て…。」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ