Present
□アイツだけ…
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…合宿なんて、始めっから来たくなかった…………。
まんまと嵌められとる俺も、ころっと騙されとるアイツらも、こんな事やらかそ思ったアノ女も、皆バカや…。
ちゃんと真実が見えとるのは、アイツだけ。
たった一人。クソ生意気な後輩だけしか、俺には残っとらん…。
今までの三年間て、なんやったんやろうな…――。
他校の奴らはともかく、四天宝寺の奴らにはそう聞いてやりたい。
共に汗を流し、共に勝ち、共に悔しい思いをし、共にふざけあったあの時間は、いったいアイツらにとってどれだけとるに足らないものやったんやろう。
突然現れた女なんかにぶち壊されるほど、脆いモノやったんやろうか…。
考えても答えなど出るはずがない。
「…大丈夫ですか?謙也さん」
「何がや?」
「何って……」
少し前までの財前からは想像出来ないほど気遣わしげな表情で顔を覗きこまれ、謙也は努めて普通の表情を装った。
本当はこんなところにいたくない。だがそんな表情は出来ない。これ以上目の前に後輩に弱みを見せたくない…。
今いるのは、合宿場として跡部が提供した別荘の一室だ。謙也と財前は、四天宝寺の集まるテーブルの一番後ろで、今日の流れを話している手塚の声を聞いている。
他の部長たちと一緒に前にいる白石はともかく、側にいるユウジたちもいっさい二人の方を見ない。今まではコソコソ話して白石に睨まれるのが当たり前だったというのに……。そのくせ、マネージャー紹介と言って前に出たアノ女にはいろいろ話しかけている。
もっともコレは、今に始まった事ではない…。
「…チッ……」
財前がいかにもウザイという雰囲気で舌打ちするのが聞こえた。顔が見えなくとも気持ちはわかる、十分過ぎるぐらい。
しかし謙也がそんな表情したのがレギュラーたちに見つかったら、また殴る蹴るの繰り返しだ。そのため今の謙也は、出来るだけ表情を変えない事に神経を使っていた。
ソレは、ほんの少し前までの彼からは信じられない行動…――。
「それじゃ部屋割を発表するぜ。部屋は基本二人部屋だ。二階東側に青学と立海。西側に氷帝と四天宝寺。…忍足と向日、宍戸と鳳、日吉と…――」
ぼーっとしていると、跡部の説明が始まった。
(…財前以外とやったら終わりやな……)
まずないとは思うが、一氏や遠山と同室なんて言われた日には体が壊れると、謙也は僅かに震える右手に気付かないフリをしながら考えた。
二人は容赦がなさ過ぎるのだ。
他のレギュラーらなら多少はマシだが。…少なくともところ構わず暴行される事はない。だがどちらにしろ、視線と雰囲気が最悪なのは間違いない。
何を考えているのかさっぱりわからない白石や千歳、金色など、今の謙也からしたら何としても回避したい一人である。
(頼むから財前とにしてくれ…っ)
両手をギュッと握り締める謙也の雰囲気が伝わったのか、財前が何も言わずに振り返った。
それと同時に、白石が幸村からマイクを受け取る。
「次は四天宝寺や。一回しか言わへんからちゃんと聞きや。特に金ちゃん」
そう前置きして始まる名前に、謙也ばかりでなく、財前も至極真面目な表情をした。
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