Present

□新部長たちとルーキー君
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土曜の午後。最も人の多い時間に、人通りの多いスクランブル交差点付近……。





「……財前?」



怪訝そうな声。自分の苗字を呼ぶ誰かに、財前は足を止め顔を向けた。



「自分…、氷帝の日吉…」



ほんの僅か驚いた表情をした財前は、次いで「何しとんねん、こんなとこで」と続けた。



「それをお前が言うか?そっちこそ、何で東京にいる」

「青学と練習試合や。…で、練習終わった途端、ウチのゴンタクレが、コシマエおらんと詰まらんから東京のウマイたこ焼き屋探してくるとか抜かしてそのまま行方不明……」

「……何だそれは…」



表情は変えないものの、肩を竦める財前に、日吉はあり得ないという顔をした。

四天宝寺と氷帝の関わりはあまりない。忍足従兄弟はいるが、試合をした事もなければ、ましてや日吉が一年の遠山について詳しく知るわけもない。強いルーキー、という事は別として。



「何もかんも、日常茶飯事や。…いつもならほっとくんやけど、ここ東京やしな……」



何せ静岡から走って東京まで来る行動範囲広いの奴だ…。

白石と違い放任主義の財前も、さすがに放っておく事は出来なかった。
新部長になってまだ日も浅いこの時期に、遠征先で問題など起こされたら先が思いやられる。



「何故ここら辺だとわかるんだ?ここは青学より氷帝の方が近くだぞ」



財前の考えるだけで疲れる内心など知りもしない日吉は、怪訝な表情で質問を続けた。
実際、青学からは電車に乗って来る距離である。



「桃城がここらにはウマイ店が多いちゅうてたからや。アイツ単純やし、こんぐらいの距離なら走って移動するわ」



ただし道に迷ってなければ……。

方向が違えば聖ルドルフや山吹の方に行くんじゃ……、と日吉が思ったのは正しい。もっと酷ければ他県に行かさるだろう。

ほぼ初めての土地で走って移動なんて無謀だ。携帯や電子端末でも持っていれば地図も見れるだろうが、彼がそんなモノを持っているタイプではない、という事は日吉にも想像がついた。



「……お前らの先輩はどうやってアイツを制御してたんだ…?」

「部長の毒手が一番効果的やったな。千歳先輩と師範はデカイぶん押さえつけれとったし、謙也さんの足にはさすがのアイツもかなわへん」



(ようは実力行使って事だろ…)



毒手について軽く説明してもらいながら、日吉の内心は若干引く思いになった。

頼もしい戦力になるとはいえ、そこまで自由過ぎる後輩の世話をすると思うとぞっとする。同じルーキーでも東の方がまだマシだ。
生意気な態度と発言を気にしさえしなければ、自分の事は自分でやる奴だったはずだ。いや、普通それぐらいやる。小学生でもそこまで自由じゃない。

海堂と桃城も同じような事を考えたんじゃないか…、と、秘かに同情の念が込み上げた…。





(氷帝にルーキーがいなくて良かった……)



新レギュラー育成の問題を含めたとしてもあり余るほど、日吉は心底に思った…――。





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