道化師と堕ちた天
□リクエスト
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三年生にとっては終わった夏、暦の上でももう九月。
それでも天気はまだまだ暑い。
そんなある日――。
教室で今日発売されたばかりの月刊プロテニスを読んでいた仁王は、あるページのある記述に、ページを捲る手を止めた。
立海大附属中学校、テニス部の特集ページ。そこに載っているのは、彼のパートナーのインタビュー記事だ。
記者「ところで、中学生だと恋愛にも興味が沸いてくる頃何じゃない?」
柳生「そうですね…。全くないといえば嘘になりますが、今はテニスをしている方が楽しいので、特別どなたかにそういった感情があるという事はありませんね」
記者「じゃあ因みに、好みのタイプとかは?」
柳生「好みですか…。清楚な方、でしょうか……」
記者「柳生君らしいわね。じゃあデートするならどこが良い?」
柳生「植物園ですね」
どこのアイドルにする質問だ、と言いたくなる様な在り来たりな内容。だが少なくとも、テニス雑誌で中学生のテニスプレイヤーにする内容ではない。
だがそれにも関わらず、仁王本人も同じ質問を受けていた。仁王だけでなく、この雑誌に取り上げられているテニスプレイヤーはおそらく全員同じような質問をされている事だろう。
現に、青学も氷帝も四天宝寺も、皆同じようなやり取りが載っていた。
興味が無いのでほとんど読んでいないが……。
(柳生の行きたいデートスポットが植物園とはのう…。初耳ぜよ)
てっきり図書館あたりかと思っていたが、少し意外なチョイスだ。
立海で植物園といえば、仁王にとって浮かぶのは部長の幸村の方だ。しかし幸村は美術館と答えている。それはそれで彼らしい答えだが…。
もっとも、植物園といって真っ先に浮かぶのは、他の誰でもない、従兄の存在なのだが――。
(柳生と蔵にこんな共通点があるとはのう…)
「意外ぜよ…」
小さく吐き出された言葉は、休み時間の喧騒に掻き消され、誰の耳にも届かなかった。
クラスの男子とサッカーに行っていていないため、丸井にも聞かれずにすんでいる。もっとも、一緒に行っていれば雑誌を見てこんな事を呟いている事もなかったが…。
今まで全く共通の要素がないと思っていた仁王にとって、この発見は意外以外の何者でもない。
邪魔が入らないのを良い事に、思わず他にも共通点がないか、脳内で彼らの趣味や好み、生年月日、身長などの基本的なデータを思い浮かべていく。
(妹がいるのは同じじゃのう…。キャピキャピした女が嫌いなんも一緒か……?)
蔵は逆ナンしてくる女大嫌いじゃし
柳生も煩い女子には何気に酷い
直接はいわんが表情と雰囲気でじゅうぶん伝わってくるナリ……
などと、一人でごちゃごちゃ考える仁王。
煩い女が嫌いなのは、彼ら二人に限らず、自分も、幸村たち三強も、おそらく他校のレギュラーの多くも同じ考えだろうという事は、このさい頭か綺麗に忘れ去られている。
(……そういや親が医療関係者なのも一緒じゃな)
内科医と薬剤師…。
四つ目の共通点に、仁王はふっと笑みを浮かべた。
探せば結構いろいろとあるものだ。ちょっと面白い……。
午後の暇な授業の間はこれで時間が潰せそうだと、昼休みの終わりを告げる予鈴を聞きながら仁王は思った…――。
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