道化師と堕ちた天

□I
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「…………ほんっと何なんだよ、この学校…っ」



笑いを学校行事にする意味あんのかっ?あぁ?とぶつぶつ文句を言う仁王。S−1GP予選二回戦が始まって早数時間。ついに堪忍袋のおが切れたらしい。
白石は苦笑いしながら、目の前で漫才に大爆笑している遠山を見ていた。



「まぁまぁ。一応これでも一般人にも人気なんやで?四天宝寺のお笑いライブは。決勝戦ともなると一般の見学者も見にこれるからなぁ」

「何呑気に言ってんだよ。一般人いないって事は、今日は余裕で標的にされるって事だろーが」

「あははは……」



ジト目で白石を見ると、白石は苦笑いしながら仁王から目線を逸した。

その時。



「なぁなぁ白石、戒律!次あっち行こうや!」

「あ、ちょっ、金ちゃん!引っ張らんでも行くからっ」

「金太郎君!人混みの中で走るなよーっ」

「はよ前いかな見えへんやーん!」



漫才が終わったらしく二人がいる後方の壁の方へやって来た遠山は、白石の手を引っ張り走り出した。昨日の男子たちのせいであちこち痛い白石は、僅かに顔をしかめながらもいつもの調子で話しかける。仁王もそれとなく止めるも、全く無駄のようだ。

いやいや、行きたくねーんだよ…!と、無邪気に笑う遠山に二人は内心同時に突っ込んだ。





「ところでさ、さっきから聞こえるケンヤ君の声、ふつーに楽しんでるよな?」



体育館のスピーカーから聞こえてくる司会進行のアナウンスを聞き、仁王は不思議そうに言った。表情は不思議そうだが、声色には呆れが混ざっている。

謙也は去年のS−1GPで名誉MC賞をとった事から、今年は司会に抜擢されていた。予選一回戦の時はまだ美並が転校して来ていなかったため普通に放送。今回の二回戦は降板させようという声も出たが、生徒会役員である金色の口添えや、今更変える事で起こる打ち合わせなどの諸々を考慮し、謙也で続行する事になったらしい。
白石や謙也から説明されたが、仁王としては納得出来ない部分だらけだ。どこまでお笑い馬鹿なんだ。



目の敵にしとる奴の親友に自分たちの大好きな行事の司会を任せるとか、プライドないんかっ?

それとも何か?楽しければ良いんか?

ただの馬鹿じゃろ!





「あー、素で楽しんどるんやと思うで?基本笑い大好きやし、今は皆も上手い実況のほうが良えみたいやからぐだぐだ言ってこんし。それに謙也は俺が誰に手ぇ出されとるかなんてほとんど知らんからなぁ」

「逐一報告してやったら良いのに」

「そんな事したら廊下歩くたんびに喧嘩や。俺まで巻き込まれて仲良く生徒指導室送りやで」



肩を竦めながらサラっという白石。突っ込みたいところはあるが、取り敢えず謙也の短気っぷりは良く解った。
そして、普通なら何の違和感もない言葉が、四天宝寺にあるというだけで酷く浮いた存在に思えてしまう不思議に呆れた。



(……この学校にもそんなモンあったんか…)



内心思うがあえて突っ込まない。平然と「当たり前やん?」などと返される気がしたから…。
やっぱりこの学校は自分には合わない……。





「……はぁ。何かテンションに酔いそうだぜ…。だる…。蔵、俺ちょっとフケけどどうする?」



溜息をつきながら額に手を当てて言うと、白石は苦笑しながら「金ちゃん待っとるわ」と答えた。
白石を一人で残しておくのは心配だが、無理矢理来いと行っても来ないだろう。――とにかく今はこの異常なテンションと熱気から抜け出したい……。



「わかった。気をつけろよ」

「おん」



それを聞くと、仁王はヒラヒラと手を振って外へ出た。






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