道化師と堕ちた天

□I
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暫く外で風に当たった仁王は、体育館の周りをぐるっと当ても無くうろつきながら、これからの事を考えていた。



(昨日の今日じゃき。噂が広まっとらんはずはなか…。明後日からどう動いて来るかじゃな……)



はっきり言って美並は慎重だ。決定的な証拠を掴もうにも、アイツは白石に接触して来ない。第一、美並は別に白石を陥れてやるとか、後悔させてやる。などの事は一切口にしていない。ボロを出してくれなければ、いくら元レギュラーたちが白石の無実を確信していても周りを説得出来ない。



(……可愛い名前して性格最悪なんは王道のくせに、何でもっと頭の弱い自分が一番タイプの典型的女じゃないんぜよ…)



はぁ…。と仁王は、疲れた顔で本日何度目かわからない大きな溜息をついた。





「そろそろ戻るか…」



呟いて歩きだす。
怠いのもだいぶ落ち着いた。そもそも寝不足な自分も悪いのだし……。

ふと辺りを見ると、今いるのは体育館のステージ側らしい。裏側から入るための階段がある。



(……確か放送室ってこの中じゃったのぅ)



白石の怪我については内緒にするにしろ、明後日からの忠告はしておきたい。白石がすでに伝えたかもしれないが、言っておいたほうが良いだろう。念のため…。



(まぁ、少しなら良いじゃろ…)



足音を忍ばせ階段を登ると、扉に手をかける。予想通り開いていた鍵に、躊躇いなく開けた。
中では調度司会の合間なのか、謙也が飲み物を飲んでいた。



「ケンヤくーん」

「うおっ。…何や戒律か。脅かすなや……」

「ごめんごめん。それより司会お疲れさん」



ポケットに入っていた飴を投げてやると、サンキューと言ってしっかりキャッチする謙也。
「白石は?」と聞かれたので、遠山といるはずと答えた。



「ケンヤ君。蔵から聞いたかも知れねぇけど、明後日からいろいろヤバくなると思うからマジで気をつけて」

「わかっとる。ちゃんと見とるから大丈夫や。…あ、ちょっと待ってや」



真面目な顔で頷いた謙也は、そう言ってマイクのスイッチを入れた。聞いてもいなかったくせに適当にどれもレベルの高い漫才がどうこうと話し、次の出場チームを紹介する。



「…あっ……」

「どうしたの?」



マイクを切った途端急に声を出した謙也に問いかけると、謙也は「コイツ等…」と放送室の小窓から外を覗いた。



「やっぱりな……」

「何が?」

「…コイツ等、白石によう絡んどる奴や……」

「え、マジで?」



「マジ」という謙也の横から外を除くと、決して広いというわけではないステージに三人の男子が上っていた。



「けど後二人おらへんな…」

「そいつらいつも蔵に絡んでるのか?」

「いや、最近はあらへんはずや。俺がしこたま怒鳴ったら逃げてきおったからな…」

「怒鳴った?ケンヤ君が?なんか意外…」



半分本気でキョトンとした顔をする仁王。
すると何故か、謙也の纏う雰囲気が一変した。



「……ケンヤ、君?」



怒りに満ちた殺気のような雰囲気に眉をしかめる。







「…アイツ等はな、白石を殺してたかもしれないんや!怒鳴るぐらい軽いもんやでっ」

「――ッ!?」



吐き棄てられた言葉に、さすがの仁王も固まった。






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