道化師と堕ちた天

□D
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サラサラの金髪を揺らしながら歩く仁王――もとい戒律雅に、廊下を歩く女子生徒が自然と振り返る。
おはよう、と声をかけてくるのは三年生だろう。愛想良く全てに笑顔で返しながら、仁王は教室へ入った。



「おっはよー!」



朝から元気にドアのところで声を上げる。

フレンドリーで明るい転校生、戒律雅の基本的行動…『挨拶は明るく笑顔で』である。因みにモデルは、青学の菊丸と桃城、氷帝の向日なんかだ。



「おはよう!戒律君ッ」

「朝から元気やなぁ、自分」

「何の何の、本場大阪の皆のテンションには負けますってぇ!」



話しかけて来た男子生徒におちゃらけた風に返しながら、昨日担任が持ってきてくれた自分の席に鞄を置く。
二人のやり取りを聞いていた他の男子が「言うなぁ」と笑うと、感化された男子たちの間に笑いの渦が巻き起きた。



「そらそうやわ、大阪人のテンション舐めたらあかんでぇ」

「授業にお笑いが入っとる学校に通ってる身としちゃあ、テンションも上げずにはおれんやろぉ」

「おぉ、さすが四天宝寺…。何かスゲーなぁ!」

「何言うてんねん、自分の事もしっかり鍛えたるさかい、覚悟しときぃ?」

「うわー……、マジで?お手やわらかにしてくれよ…?」



勢い良く肩に腕を回してきた男子に少しよろけながら、苦笑いして頼む。
ノリノリで答えると今すぐにでも何かしらをやらされ兼ねないので、当たり障りなく言ってさりげなく逃げたのだ。コレばっかりは一瞬、完璧に仁王雅治としての反応になった。



(……冗談じゃないぜよ…。お笑い授業だけでも鬱なんに、俺がソレをやるなんて死んでも有り得ん)



詐欺云々以前の問題として、プライドが許さない。
誰がそんな恥さらしな事をするものかッ。



内心引き攣りそうになる顔を隠して男子たちのやり取りを見ていると、女子生徒が一人、教室に入って来た。

一瞬クラスメートだろうと思い視線を外そうとするが、鞄を持っていないのでそれは無い。案の定その女子は教室の前の方で固まっている女子のグループの一つに声をかけた。



「おはよう、皆」

「あ、唯ちゃん。おはよー」

「おはよう」

「おはよ、どうしたん?」

「誰か英語のワーク持ってないかなって思って。今日使うって言われてたのに持ってくるの忘れたみたいでさ」



話しかけられた三人の女子たちは、口々に挨拶を返す。唯と呼ばれる女子の言葉に、その内の一人が「あるで」と言って教室の後ろに備え付けられた個人のロッカーの中から一冊のワークを取り出した。






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