道化師と堕ちた天
□N
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「…………ん、…っ……」
うっすらと目を開けると、目の前には見慣れない天井があった。横を見ると、淡い色のカーテン。
(…あぁ。保健室か……)
まだはっきりしない頭でそう結論けながら、仁王は体を起き上がらせた。
その途端、体を激痛が襲う。
「――っうぅ…!」
声を堪え、仁王は体を丸めてうずくまった。
白石の利き腕をおそらく知りながら、なお容赦なく踏みつけてきた男子たち。彼らを脳内で罵倒しながら、仁王は痛みの波が過ぎるのをひたすら耐えた。
(アイツらっ…、今に見ときんしゃい……)
と、その時。控え目な音を立てて、ドアの開く音がした。カーテンに遮られ誰かは見えない。仁王は黙って様子を伺った。
足音は真っ直ぐこちらへ来る。
「雅っ、目覚めたんか!?」
「蔵か…」
シャッという音とともに顔を見せた白石は、起き上がった仁王を見て酷くホッとした顔になった。
変装を解いている白石の姿と呼び方から、仁王は白石の愛称を口にする。
「…怪我は……?」
ためらいがちに聞く白石。仁王はその顔に、罪悪感が感じとられた。――自分と入れ替わったせいで雅が怪我をした。そう思っているのだろう事は、火を見るより明らかだ。
「大丈夫じゃ。三、四日すれば治るき」
「すまん。俺のせいや…」
「違うじゃろ。悪いんはやってきた馬鹿どもじゃ」
手をギリッと握り締める白石に、仁王はわざと呆れた顔をして言った。
事実、悪いのは白石じゃなくあの男子どもだ。そもそも、諸悪の根元は美並だ。
「…それよりおまん、屋上にいて大丈夫じゃったか?」
仁王はわざと話しを変える。
「おん。反撃しようとしたところに小石川が来て…。お陰でたいして揉めずにすんだわ」
「そうか」
「ちゅーかそういう事は連絡しろっちゅうんや。何で小石川が屋上に来るんか焦ったやろっ」
「あー、すまんすまん」
ジト目で文句をつける白石に、仁王は悪びれもなく謝る。いつの間にかいつもの調子に戻りつつある白石の言動に、仁王は気付かれないよう、小さく口元を緩めた。
それに気付いてか気付かずか、白石は仁王を咎める口調で話しを続ける。
「…だいたいお前な、金ちゃんに何やらすんや」
一部始終見てろだなんて…。仁王が応戦したとしてもしなかったとしても、どんな状況になるかなど予想出来なかったわけがない。
何て事してくれたんだ。
「アイツ以外、俺の正体知っとるヤツおらんからのぅ」
「理由になっとらんわ。だいたい前もって言えや。お陰で不都合生じまくりやで…」
はぁ、と溜息をつく白石。聞き捨てならない一言に、仁王は怪訝な顔をする。
どういう事だ。と言いたげな顔に、白石はもう一度溜息をついてから口を開く。
「お前の正体、レギュラー全員が怪しんどる」
千歳や財前は気付いとるかもしれへんな……。と疲れた顔で言う白石に、仁王は「うわー…」と遠い目をした。
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