道化師と堕ちた天
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「…財前。ちょお」
「…………」
朝練時、部員たちの監督をしていた財前は、後ろからこそっと話し掛けて来た謙也に続き、黙って部活を抜け出した。
「…何スか、いったい」
「コレ、今朝届いたやつや」
アイツら目離したら何仕出かすか…。と文句をいう財前を遮り、謙也は紙袋に入ったモノを差し出した。
途端にけだるげな表情を一変し、「さすがやな」と呟く財前。中に入っているのは、間違いなく“例の物”だ。
「まったくや。持つべきモノは金持ちのダチやな」
「謙也さんのダチやないですやろ。ちゅーか失礼なやっちゃな」
「お前にだけは言われたないわ」
シレッとした顔でいう財前にジト目を向ける謙也。財前はふんっと小さく鼻で笑うと、それを受け取って歩き出した。
「任せて下さい。後はこっちでやっときまスわ」
「おん、任せた」
軽く手を挙げる財前の背中にそう言うと、謙也は静かにその場を去った。
事は十数時間前に遡る。
「…あ、せや仁王」
ニヤリと笑ったに仁王に協力を約束したあと、謙也はふとある事を思い出した。
「ん?」
「この間のSー1GP予選の時、侑士から電話あったんや。…何や氷帝にも噂行っとるらしい」
「…っ……」
「…で?」
ぐっと顔をしかめる白石を横目でとらえながら、仁王はポーカーフェイスのまま促す。
「侑士の話やと青学も知ってそうやから、立海も知っとるかもしれん。まぁ、それはええんやけど…。侑士が、協力が必要ならいつでも言えって跡部が言っとったって」
「跡部君が…?」
「せや。噂信じるんかって言ったら、見くびんなやって逆に文句言われたわ」
意外そうに呟く白石に、謙也は肩を竦めてそう締め括った。
一方仁王は、何か考えるように黙り込む。
「仁王?どうしかしたんー?」
遠山が首を傾げた。
「いや…。忍足、今すぐ従兄に連絡しんしゃい」
早速頼まれてもらうぜよ。と、仁王は口角を上げて言う。
「…は?」
「何を頼むと?」
「超小型監視カメラ。部室に仕掛けて構わんか?」
千歳の問いに答えながら財前を見て聞く仁王に、彼は何て事はなさそうに頷く。了承を得ると、仁王はもう一度謙也を見て説明を加えた。
「部室とコートと蔵に付けとくヤツ。最低三つは欲しいって言ってくんしゃい。多くて困る事はないけどの」
「証拠集めって事ねえ?」
「そういう事ぜよ。アイツなかなかボロ出さんからな、それくらいした方が早い」
「確かに」
同感とばかりに相槌を打つ一氏の傍で、石田たちも納得したように頷いた。
「わかったわ。電話しとく」
「…じゃあ、俺そろそろ部活行きます」
アイツら見張っとかなあかんろ。といい、財前は遠山の腕を掴んで出口へ向かう。
「…あ、せや部長、仁王さん。部室の始末はさっきアンタらが話とる間に副部長とやったんで問題ないっスわ。他の奴らは、今頃何も知らんと普通に部活しとるはずです」
「あの三人はどうしたんじゃ?」
「無断でミーティングサボった罰として、外周三十周て言うときました。そろそろ終わってる頃やろ」
なんぼなんでも終わっとらんかったらレギュラー落ちや。と黒い笑みを浮かべる財前。
「腐ってもレギュラーなら、そんぐらいこなせて当然やわ」
当たり前のように言う財前に、実際数ヶ月前まで当たり前にこなしてきた猛者たちは何も言わない。その無言こそが、白石たちの肯定の意を示していた。
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