道化師と堕ちた天
□C
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「取り敢えず落ち着きや女子!戒律、一番後ろの席に座っといてくれ。急な事やったから机用意出来とらんくてな。後で持ってくるさかい」
「分かりました。お願いします」
担任が指差したのは窓側の一番後ろ空いてる席。
仁王は頷いてそこに腰を下ろした。
女子の視線が自分に沿って動くのを自覚しながら、知らない振りを決め込んで頬杖をつく。
(一つだけ空いた席っちゅう事はここがアイツの席か……)
三年一組唯一のテニス部レギュラー
千歳千里――
白石に前もって聞いた話しだと、始業式の日から一週間はいたがその後連絡が取れず完全に音信不通になっているらしい。
元々神出鬼没でその日の出席がクラスの賭け対象にされる程までだったらしいが、ここまで酷いのは始めだとか。
(たく、他人の心配しとる場合か。お人好しな奴じゃの……)
心配ないだろう、と言いながらも気にしている様子だった昨日の白石の様子を思い出し、仁王は内心で深い溜息をついた。
正直、仁王から見て今の白石は危機感が薄いと思わざる得ない。
最も信頼している後輩や親友が味方でいてくれているからかも知れないが、それにしたってもう少し気持ちをぶちまけるぐらいしたらどうなのだと思う。
事の始まりを話してくれた時ですらほとんど顔色を変えなかった事が仁王には逆に気になっていた。
…もしかしたら、コレが友香里の言っていた“笑わなくなった”と言う事なのかも知れない。
この俺が見抜けない程に感情の起伏が減ったのかも知れない…………。
(…蔵……。大丈夫じゃ、絶対新人戦までに解決しちゃるきに)
そしたら全国でお互いの後輩が当たるのが楽しみじゃな。
仁王はバレないようにしながら室内の全員を冷やびやとした目で一瞥した。
この中の何人が真実に気付いているのだろう。
そして何人が正しい事を行動に移す事ができているのだろう。
答えはおそらく限りなくゼロに近い。
それでもこんな馬鹿共の目を覚ましてくれと従兄は言った。
それならば仁王は立海大の詐欺師の名にかけて必ずやり遂げる。
それが彼の優しさでありプライドだ。
担任がホームルームの終了を告げる。
(覚悟するんじゃの。後でせいぜい後悔しんしゃい)
号令に従って立ちながら、仁王は誰にも見られずニヤリと笑った。
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