道化師と堕ちた天

□D
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「ありがとう。今日使わない?」

「おん、まだこっちは使うって言われてへんし」

「わかった。じゃありがたく借ります」

「どうぞどうぞ」



かしこまった挨拶を交わし、直後に皆して吹き出す四人。仁王は横目で様子を見ながら耳をすまして会話を聞いていた。





「あ、せやユイ、戒律君とはもう話した?」



三人の内の一人が急に思い出した様に言った。

ここでその話題を振るんか…、と思いながらも、知らんぷりを通して内心身構える。



「…カイリツ君?誰その人?」

「昨日めっちゃ話題になっとったやん!」

「あ、転校生君のこと?」

「せやせや。ほら、あそこにいる金髪の男子」

「…………」



女子の一人が仁王を指差す。唯が自分の方を見ているのを感じながら、仁王は未だにふざけている男子たちを見るのを続けた。





「……あの、戒律君?」

「ん?」



すっと近付いて来た唯は、遠慮がちに話しかけて来た。
仁王はたった今存在に気付いたかの様に首を向ける。小さく首も傾げる。



「四組の美並唯花です。私も夏休み明けに転校して来たの。転校生同士、わからない事があったら聞いてね?」

「俺は戒律雅。じゃあ何かあった時はよろしく」



ニコッと笑う美並に、仁王も負けずと笑い返す。
誰がよろしくするか、と言う本心は綺麗に隠し通す。



「カイリツって珍しい苗字だね?」

「んーそうだな。ミナミさんのミナミは東西南北の南?」

「ううん。美しいに並べる」

「へぇー、珍しいじゃん!」

「カイリツ君の字は?」

「警戒の戒に律する」

「絶対読めないよ…」

「うん、読めない人多いぜ」

「私は書き間違われる事が多いな…」

「あー、納得……」



いつの間にか会話が弾む。

予想していたのとは違い、美並の言葉使いは至って普通だ。むしろ丁寧な方。

この女の本性を知らなければ、そりゃあ普通に良い同級生になるかもな、と仁王は思った。





「戒律君、名前呼びしても良い?」

「あー、ゴメン。俺自分の名前あんま好きじゃないから出来れば苗字の方が良い」



どの流れからその話しになるんだ、と思いながら、あくまでもすまなさそうに断る。
偽名だとしても本名から取った名前をこんな奴に呼ばれると思うとぞっとする。



「そっかぁ、じゃあ私の事は好きに呼んでね」

「分かった。じゃあ唯花ちゃんで」

「っ、え…ちゃん?」



サラっと言うと、美並の表情が固まった。ポカンとした顔は見ていて笑えるが勿論笑いはしない。



「ダメだった?」

「いや…、男子にちゃん付けされるの何て幼稚園ぶりだなって思って…」

「冗談だって!じゃあ美並ちゃんな?」

「うん、そっちの方が違和感ないかも」



ニカッと笑って肩を軽く叩くと、美並は漸く小さく笑みを浮かべて頷いた。






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