道化師と堕ちた天
□G
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教室に戻ると案の定、仁王はクラス全員に取り囲まれた。噂が広まるのは早い。女子も全員知っているようだった。
予想通りの成り行きに内心ほくそ笑みながら、仁王は目を白黒させてクラスメートたちを見た。
「え、何。俺何かした?え…?」
「自分、さっき言っとった事ってホンマか?」
「さっき?どれの事?」
「白石と従兄弟っちゅー話や」
「あぁ、それか。本当だぜ」
クラスを代表して聞いて来る男子にそう返せば、仁王の言葉を一言も漏らさないようにと静まりかえっていた教室にざわざわが広がる。
「じゃ、じゃあ、白石君を信じとるっていうのは……」
「勿論それもホント」
「そやったら、唯ちゃんを疑うとるっちゅーんは…?」
「俺は誤解があるのかもしれないって言っただけだぜ?」
躊躇いがちに聞いて来た女子は、仁王の平然とした即答にそれきり黙り込んでしまった。
それきり誰も何も言わない。――仁王はここでまた、違和感を感じていた。
ざわざわと隣通しで喋りはしながらも、直接仁王を罵倒しようとはしないクラスメート。
(おかしいじゃろ…)
さっきも一組の男子は遠目に見ているだけで何も言って来なかった。
この学校の状態なら、ここらへんで仁王を一斉に非難してくるのが普通だろう。
(……埒が明かんの)
「……蔵、は…大事な従兄弟、なんだ。…蔵の、味方だと、…俺は、このクラスの邪魔者か……?」
揺さ振りをかけた。
伏し目がちに誰の顔も見ず、右手で左腕をギュッと握りながら声を絞り出す。――まるで泣きそうに見えるだろう。
「――っ!そんな事あらへんわ!」
「え…」
直ぐに返って来る言葉に、仁王は浮かない顔のまま顔を上げる。声を上げた男子の他にも、何人かが仁王を真っ直ぐ見詰めていた。
視線を逸らしている大多数をスルーし、男子は話しを続ける。
「…自分が、白石の味方だとしても、このクラスの一員には変わりあらへんっ」
「でも、蔵の事はキライなんだろ?」
「っそれは……。っけど、それで戒律がキライってわけやない!」
男子の言葉に合わせ、こちらを見ていた他の生徒も、せやで、と相槌を入れて来る。見ると、さっきまで視線を逸らしていた生徒たちも仁王をしっかりと見ていた。
仁王はほっとした顔をしながら、小さく笑みを浮かべた。
「ありがとう…」
「礼なんかいらんわ」
「そうや、戒律は俺らの立派な仲間やん!」
「せやせや、誰の味方とか関係ないわ。ようは誰と仲良うしとるかの違いやろ?」
仁王の笑顔に誘発されたのか、途端に明るくなるクラスの雰囲気。
さすが関西人。……という問題ではない。
(ふざけとんのかコイツらは…)
仁王は勝手に盛り上がっているクラスメートを心底冷めた目で見ていた。
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