道化師と堕ちた天

□I
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次の日の朝。仁王と白石は学校へ向かいながら揃って溜息をついた。



「…蔵。頼むけぇもう怪我せんでくれ……」

「おん。次からは何がなんでも抵抗するわ…」



疲れたように話す二人。原因は白石の身体の問題ではない。そりゃ白石の体は昨日の予想通りずきずきしているが、今はそれではない。





『雅治!何のために学校サボって四天に来とるんっ。ちゃんと蔵クンの事守りんしゃい!!』

『蔵!あんた何やられっぱなしにしとるん!男ならやられたらやりかえしやっ!』





昨日の放課後。家に帰った二人は、休日を利用して様子を見に来た仁王の姉と、部活を終えて帰って来た白石の姉に怒涛のように文句を言われた。

二人とも自分たちのやってる事は知っている。仁王が戒律になる際、手伝ってくれたのも仁王の姉だ。メイクの腕はピカイチ。美並なんて目じゃない。
白石の姉も、いつまでも大阪に滞在する仁王の事を上手く誤魔化してくれている。――もっとも、白石の母は仁王の予想通り、息子の異変に気付いてはいたが……。



「はぁ。姉ちゃんも来るタイミングが悪いんじゃ…」

「いや…、むしろ昨日で助かったかもしれへんで。笑いに託けて水とかぶっかけられたらそれこそ言い逃れ出来へんわ」

「やめんしゃい……。縁起でもない」

「あながち有り得なくもないやろ。それより雅。自分も自衛すんなら完璧にしてや」

「おん。わかっとる」



溜息をつきながら言う白石に、仁王は疲れた顔で頷いた。

もし少しでも見えるところに怪我をしたら…。いや、見えないところでも怪我がある事がバレたら……。考えるだけでも面倒臭い。





『ちょっ、蔵!自分の身ぐらい自分で守りやとは言わんけどっ、雅治にまで怪我さすんやないわ!』

『あ、いや…。これぐらいたいした事ないんじゃけど……』

『何言うとるん!?頬っぺた赤くなっとるやないっ。ちょっとやけどアンタ白いんやから目立つんよ!?』

『目立つって…。女子じゃないんじゃし…』

『そうよ。雅治の何てたいした事ないわ。どう考えても蔵クンのが酷いじゃろ』

『そういう問題ちゃうて!』





昨日そうやって、本人にとってはまるで取るに足らない事で散々言われまくった仁王。

それでも友香里や神奈川にいる仁王の弟へは一切他言しないでいてくれているから良いのだが…。ああも好き放題言われると感謝しなくても良いような気がして来る。



「まぁとにかく、用心に越した事はないナリ」

「せやな」



面倒臭そうに呟く仁王に、白石もまた、苦笑気味に頷いた。





何気なく話しながらも、二人の足は確実に四天宝寺へと近づている。

少しずつ他の生徒の姿も出てきて、そのほとんどが二人を見ると嫌そうに足早に離れていった。もっとも、中にはあからさまな敵意を向けて来る者もいるので、二人としては離れて行ってくれる方が嬉しかったりするのだが……。

自然と声の大きさを落とし、二人はゆっくり歩きながら学校まで向かった。
いつの間にか仁王の口調も戒律バージョンになっている。口にしている言葉はかなり怠そうなのに、表情も声色も完璧い明るいキャラになりきっている仁王に、白石は密かに感心した。――さすが詐欺師。



「……ホンマにたいしたもんやな。この前『コート場の詐欺師』いうたの誰や?完璧コート外もやろ」

「は?何が?」

「その徹底的に成りきっとるとこや」



ん?と戒律バージョンで首を傾げる仁王に言ってやれば、仁王はあぁ、と一人納得したように頷き、何故か笑いだした。



「ククッ。生憎今は詐欺師じゃねーんだよな。今の俺は道化師。差し詰め金の道化師か?」

「道化師?…ピエロか。でも何で道化師なん?金は見た目やろ?」

「そう、金は髪色。まぁ道化師のほうはその内教えるって事で」

「は?」



どこか面白そうな表情を浮かべる仁王は、良いから良いからーと言いながら、怪訝な顔をする白石に笑いかけた。






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