道化師と堕ちた天

□L
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『あの女の仮面やったら、コレで剥がれるんちゃいます?』









昨日財前に言われた言葉をふと思い出し、仁王は一人口元を緩めた。

今は授業中。珍しく連続で学校に来ている千歳も爆睡中なので、仁王の変化に気付く者はいない。――三週間も休んだうえに寝てて大丈夫なのかコイツは、とも思うが、面倒なので放っておく。テスト前に何とかするだろう。馬鹿そうには見えないし…。





(やるのぅ。アイツも…)



さすが四天宝寺の天才。ウチの天才とは大違いじゃ――。なんて本人が聞いたらブチギレ間違いなしの事を思いながら思考に耽る。





『コレ聞いて下さい』



そう言って渡されたイヤホンを耳に付けると、聞こえて来たのは直前まで聞いていた女の声だった。



『――たく、やってらんないわ。財前君と遠山君は自分のは自分でやっちゃうし。たいして強くもない奴らが私の仕事増やすんじゃないわよ…』



ぶつぶつ言う美並の声の後ろでは、何かを振るシャカシャカという音が聞こえる。おおかたドリンク作りをしながら愚痴っているのだろう。



(……ふっ。詐欺も道化も油断は禁物じゃき。確実に気を抜けるとこ以外で独り言なんぞ馬鹿な奴じゃな…)





内心馬鹿にしながら驚いた顔で財前を見ると、財前はポケットから機械を出して無言で仁王に見せた。何かなんて聞かなくてもわかる。



『ボイスレコーダー…?』

『高性能長時間録音対応の優れものっスわ。他にも聞きます?』

『あー、今はいいや。ソレさ、パソコンに落としてUSBかなんかに移せない?』

『出来ますよ』

『じゃあやってくんない?』



そう言ってポケットから空のUSBを出して渡すと、財前は「あんたもなかなかやな」と口元に笑みを浮かべてソレを受け取った。



『アイツ、最近部員にチヤホヤされへんからイラついとるんスよ』

『…何で?』

『俺と金太郎で休む間もなく部員動かしとるせいで、誰も抜け出せないんスわ。休憩に入ってもへばって動ける状態やないし。誰も手伝いにいかんうえにタオルとかドリンクの消費は半端ないから仕事は増える一方』



何て事はなさそうに告げながら「好い気味や」と付け加える財前に、仁王は密かに感心した。
ずっと慎重だった美並にボロを出させるあたり、なかなか良い性格と行動をしている――。



『すげーな。上手いことやってんじゃんっ』

『案の定愚痴りおったし。録音も出来たし、金太郎は思っきし発散しとるし、思惑通りってとこやな。バカどもは金太郎にこれでもかってぐらい絞られとりますからね、見てて気分良いっスわ』



シレッと言う財前。立海にはなかなかいないタイプだ。強いて言うなら自分に近い。
面白い奴だ――。






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