道化師と堕ちた天

□P
1ページ/8ページ




財前が白石と謙也を拒絶した事実は、瞬く間に噂で広まった。

いつも通り登校した仁王と白石は、校内に足を踏み入れた瞬間、すぐにそれを悟った。
周りの視線とコソコソ話し。何より学校全体の雰囲気がざわついている。

二人は黙って目配せすると、何事もなかったかのような顔でそれぞれの教室に入り、普段どうりに行動した。







「戒律!財前君が白石たちを拒絶したってホンマ!?」



教室へ入るなり、掴みかからん勢いで迫って来た紺野に、仁王は仰け反りながら頷いた。

信じられへん…。と呟く紺野と仁王の事を、クラスメートたちはチラチラ気にしているのが見て取れる。



「光君もイライラしてるんだよ。新人戦前なのに全然部が纏まらないから」

「でもそれは白石のせいやないやん!ましてや忍足は財前君のダブルスパートナーやったんやないん!?」

「うーん、そこは俺にはわかんないけど……。でも蔵も、部に顔出さない方が良いのはわかってたし…」

「だからってっ」



困った顔で小さく笑いながら言えば、紺野は酷く悔しそうに顔を歪めた。握り締めた拳が、彼女のもどかしさを表しているようだ。




「…………あの、さ…。そこに戒律もいたっちゅーんはホンマか?」



そんな気まずい沈黙な中、男子の一人が躊躇いがちに話しかけて来た。



「いたよ」

「何でや?」

「部活見学に行ってたんだ。テニス部が見てみてくて」



さらりと答える仁王に、男子の顔が微妙に変化した。



「自分は止めなかったん?」



そう聞いて来る男子の言葉に、クラス全員が仁王を見た。



「――止めてないよ」

「……っ、何でや?自分は白石の味方やなかったんか?」

「味方だよ勿論。蔵は大事な従兄だかんね。でもテニス部の事はオレが口出ししちゃダメでしょ。部外者なんだし。ましてや光君は蔵が部活に来るのは拒絶したけど、こう言ったんだよ?『アンタが悪ないのはわかっとりますけど』って」

「え、それって……」

「別に光君は蔵を信じてないわけじゃない。まぁ、結果的に蔵が多少傷ついたのは事実だけど……」



はっとした顔をする紺野の方をチラッと見て頷くと、仁王は悲しそうな顔をしながらそう締め括った。



「ほんなら、白石は部のために身を引いたっちゅーんか…」

「そうだよ」

「何で自分の事信じとらん奴らのためなんかに……」

「蔵はそういう奴だし」

「どこまでバイブルなん?ホンマ有り得へんよ…」

「蔵、プライド高いからなぁ」



ポツポツ呟かれる言葉に一つ一つ返していく。





「……俺、白石側につくわ」

「っ、私も!……実はこの間、プリント拾うの手伝ってもろたんや。白石君はいつもの白石君やった……っ」

「せや。変わったのは俺らやったんや。…紺野のときに思い知ったはずなんに……」



とうとう一人の男子が言った。それを皮切りに口々話し出す彼ら。

数日前から仁王が仕向けていた言葉。白石の無実を、自分たちの間違いを認めさせる事を、彼らは言った。



(漸くはっきりさせたようじゃな。…どっちつかずなんて許さんぜよ。もすぐクライマックスなんじゃからのう……)



辛そうに、それ以上に悔しそうに話すクラスメートたちを、仁王はポーカーフェイスのまま見ていた。

その仮面の下で、不適に笑みを浮かべながら……。





.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ