道化師と堕ちた天
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財前が白石と謙也を拒絶した事実は、瞬く間に噂で広まった。
いつも通り登校した仁王と白石は、校内に足を踏み入れた瞬間、すぐにそれを悟った。
周りの視線とコソコソ話し。何より学校全体の雰囲気がざわついている。
二人は黙って目配せすると、何事もなかったかのような顔でそれぞれの教室に入り、普段どうりに行動した。
「戒律!財前君が白石たちを拒絶したってホンマ!?」
教室へ入るなり、掴みかからん勢いで迫って来た紺野に、仁王は仰け反りながら頷いた。
信じられへん…。と呟く紺野と仁王の事を、クラスメートたちはチラチラ気にしているのが見て取れる。
「光君もイライラしてるんだよ。新人戦前なのに全然部が纏まらないから」
「でもそれは白石のせいやないやん!ましてや忍足は財前君のダブルスパートナーやったんやないん!?」
「うーん、そこは俺にはわかんないけど……。でも蔵も、部に顔出さない方が良いのはわかってたし…」
「だからってっ」
困った顔で小さく笑いながら言えば、紺野は酷く悔しそうに顔を歪めた。握り締めた拳が、彼女のもどかしさを表しているようだ。
「…………あの、さ…。そこに戒律もいたっちゅーんはホンマか?」
そんな気まずい沈黙な中、男子の一人が躊躇いがちに話しかけて来た。
「いたよ」
「何でや?」
「部活見学に行ってたんだ。テニス部が見てみてくて」
さらりと答える仁王に、男子の顔が微妙に変化した。
「自分は止めなかったん?」
そう聞いて来る男子の言葉に、クラス全員が仁王を見た。
「――止めてないよ」
「……っ、何でや?自分は白石の味方やなかったんか?」
「味方だよ勿論。蔵は大事な従兄だかんね。でもテニス部の事はオレが口出ししちゃダメでしょ。部外者なんだし。ましてや光君は蔵が部活に来るのは拒絶したけど、こう言ったんだよ?『アンタが悪ないのはわかっとりますけど』って」
「え、それって……」
「別に光君は蔵を信じてないわけじゃない。まぁ、結果的に蔵が多少傷ついたのは事実だけど……」
はっとした顔をする紺野の方をチラッと見て頷くと、仁王は悲しそうな顔をしながらそう締め括った。
「ほんなら、白石は部のために身を引いたっちゅーんか…」
「そうだよ」
「何で自分の事信じとらん奴らのためなんかに……」
「蔵はそういう奴だし」
「どこまでバイブルなん?ホンマ有り得へんよ…」
「蔵、プライド高いからなぁ」
ポツポツ呟かれる言葉に一つ一つ返していく。
「……俺、白石側につくわ」
「っ、私も!……実はこの間、プリント拾うの手伝ってもろたんや。白石君はいつもの白石君やった……っ」
「せや。変わったのは俺らやったんや。…紺野のときに思い知ったはずなんに……」
とうとう一人の男子が言った。それを皮切りに口々話し出す彼ら。
数日前から仁王が仕向けていた言葉。白石の無実を、自分たちの間違いを認めさせる事を、彼らは言った。
(漸くはっきりさせたようじゃな。…どっちつかずなんて許さんぜよ。もすぐクライマックスなんじゃからのう……)
辛そうに、それ以上に悔しそうに話すクラスメートたちを、仁王はポーカーフェイスのまま見ていた。
その仮面の下で、不適に笑みを浮かべながら……。
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