道化師と堕ちた天
□Q
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目の前で行われる試合を見ながら、仁王は考えをめぐらせていた。
新人戦はもう一週間後に迫っている。決着は間近だが、問題は財前と遠山以外のレギュラーの実力を上げられるか…。そこは仁王には関係のない部分だが、出来るだけ早く終わらせなければいけない。
「素直にかかってくれればええけどのう…」
ボソッと呟くと、横にいた白石が不思議そうな顔で仁王を見た。
「どうかしたん?雅」
「あぁ。どうやって美並を俺に告らせようかと思ってのう」
「は?」
サラッと答えると、怪訝な顔をする白石。
「わざとフッて逆上したとこをバラす作戦やったんか…?」
「おん。いろいろ考えたんじゃけどのう。おまんと同じシチュエーションの方が説得力もあるじゃろ」
「確かにな」
納得したように頷く白石は、そのまま視線を前に戻した。
二人の目の前では、お笑いダブルス対忍足・財前ペアの試合と、石田対遠山の試合が行われている。
勿論場所は四天宝寺ではない。謙也の家の近くにあるストリートテニス場だ。
今日は土曜日。遠山の我慢の限界と財前のストレスのはけ口、白石の気分転換などを考え、テニス部の練習が終わった夕方、わざわざ集まったのだ。
案の定、皆久しぶりに思い切りテニスをし、楽しそうにしている。
「そういえば仁王、アノ女の情報はどっから仕入れたと?」
仁王の横に立って試合を見ていた千歳が、思い出したように聞いてきた。
そういえば、と白石も仁王を見る。記事を見たときは何ともいえない衝撃に忘れていたが、急にどうしてあんの事がわかったのか謎である。白石の後ろに立っている小石川も、興味深そうに見ている。
「……コレぜよ…」
仁王は一瞬見せるのを躊躇いながらも、携帯をカチカチ操作し、三人に見えるよう持ち上げた。
「これ…」
「え…、バレたんか……?」
「思わせぶりっちゃね」
三者三様の反応をする三人。しかしその目は、画面に表示されている文面と差出人に釘付けだった。
「何しとるんでるんですか、先輩ら」
急に声をかけられ顔を上げると、リストバンドで汗をぬぐいながらやって来る財前がいた。その横には謙也もいる。
「何見とるん?」
「あぁ、コレぜよ」
携帯を見せてやると、覗き込む二人。目を丸くする謙也と、眉をしかめる財前は見事に対照的だ。
そうしていると、金色と一氏もやって来てそれぞれの反応をする。漸く試合が終わったのか、石田と遠山がやって来るのも見えたので、来るのを待って見せてやる。
「この兄ちゃん凄いなぁ!美並が悪者なんわかったんか!!」
「まったくたい」
素直に感心している遠山に千歳はニコヤカに同意するが、仁王の内心はそうもいかない。
(アイツがこんな中途半端な情報でやめるわけなか。絶対あの記事も調べとる。)
わざわざこんなメールをよこしたのは、おそらく真実に気付いているかどうかを誤魔化すため。――否、俺に余計な事まで気を使わせないための配慮……。
柳蓮二
無題
西日本と言えば、四天宝寺の話しを知っているか?
俺の予想では黒幕はある女子生徒だが、その美並唯花という女、昔はちょっとした有名人だったのを知っているか?
二年前の中総体の記事に名が載っていた記憶がある
たしか陸上選手だったか……
何故そんな奴が四天宝寺にいるのかはわからんがな
(……たく、どこまでも喰えん奴ぜよ)
仁王はふっと口元に笑みを浮かべた。
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