道化師と堕ちた天

□R
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体育館に入ると、ステージにはスクリーンが降りており、ステージ前にはプロジェクターとパソコンを弄る財前と金色がいた。
遠山と一氏はピロティの暗幕を閉め回っており、石田と小石川は生徒を外に出さないよう入り口を見張っている。教師の相手は渡邊がやっているようだ。



「あっ、唯花ちゃん!」



仁王たち三人に気付いた生徒たちは、口々に美並と仁王に言い寄って来た。「あんなの嘘だよね!?」と言って来る顔には、信じたくないという思いがありありと表れている。



「まぁまぁ、待つたい。今から自分の目で確かめなっせ」



へらっとした笑みを浮かべて仁王たちの前に出る千歳は、笑顔とは裏腹に問答無用で人垣を押し返す。



「行きばい」

「あぁ、任せるナリ…」



小さく呟く千歳に、仁王は美並の腕を掴んで千歳の後ろを通り抜けた。

様々な思いが込められているのだろう視線を浴びながら、進行方向で、謙也が渡邊にマイクを渡しているのが見える。近付くと、謙也は無言で着いて来るよう指示した。



「ほらいい加減黙りや!自分らあぁっ」



渡邊のデカイ声が体育館中に響く。途端に元レギュラー以外の者たちは黙り、水を打ったかのように静かになる空間の中で、仁王と美並、謙也、そしてステージ袖から出て来た白石だけが動いていた――。







「生徒も教師も関係ない。全員放送聞いとったやろ?今からそれを映像つきで流したるから。よく見とけ!」



渡邊に渡したのとは別のマイクを取り出し、怒りを隠そうともせずに話し出す謙也から、仁王は無言でマイクを抜き取る。



「音だけのもあるけど、手加えたりなんかしてないから。そんなセコイ小細工しない。…真実を自分自身で受け止めろ」



無表情で淡々という仁王に、戒律の笑顔に慣れた一組の生徒たちは目を疑う。そのギャップに…。

そんな事を気にも止めず仁王が金色と財前に頷くと、音が流れ出した。







『――たく、やってらんないわ。財前君と遠山君は自分のは自分でやっちゃうし。たいして強くもない奴らが私の仕事増やすんじゃないわよ…』



以前仁王が財前に聞かせてもらった音声だ。財前が別のマイクで部室で隠し録りした事を説明する。

続いて流れたのは、部室の方を見る美並の映像。美並の向こうには、窓の外でカメラを構える遠山の姿がある。



『実はMなんちゃう?普段遠山とか謙也先輩らに笑顔で命令しとるくせに、実は、みたいな?』

『それ傑作!めっちゃナイスやわ〜』

『…っ、がっ!……っ俺、は…。金ちゃんにも、…謙、也…にも、命令なんか…、してへんわ』



映像に被せるようにして聞こえて来た音声に、遠山は顔色を悪くして一氏の制服を掴んだ。あの日の光景を思い出したのだろう。一氏が遠山の頭を撫でているのが仁王たちの視界には映る。
しかし、遠山の比ではない青い顔をした者たちもいる。あのときの三人だ。ほとんどの生徒は、初めて聞く暴行中のやり取りに彼らに気付きもしないが、謙也などは射ぬき殺さんという形相で彼らを睨んでいた。







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