道化師と堕ちた天
□リクエスト
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TO、仁王雅治
SUB、無題
お疲れさん
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全国大会の準決勝が終わり、一息つく間もなく流し素麺大会を行い、挙げ句青学や氷帝と焼き肉大食い対決なんかを勃発するはめになった白石は、結局、ホテルに戻って初めて、半日ぶりに携帯を開いた。
「…何やコレ」
たった一言しかない従弟のメールに、思わず呟く。
同室の謙也に不思議そうな顔をされたが、彼との関係は秘密のため適当に流す。
何の事を言っているかはわかるが、短すぎやしないか…。
(つーか自分、試合見とらんやろ)
自分たちの試合の間、立海は屋外コートで名古屋星徳と試合中だった。
何を考えてかは知らないが、シングルス3とダブルス2で八百長までしたらしい。絶対仁王が絡んでると思う白石の予想は、見事に当たっている。
「ちょう電話してくるわ」
「おー」
音楽を聞きながらゴロゴロしている謙也に一言かけ、白石は廊下に出た。
閑静で人気のない廊下。こんな場所で話すような非常識ではないので、白石は突き当たりにある非常階段へと向かった。
「あー雅か?」
[何じゃ急に]
「何やねんあのメール」
[何ってまんまじゃろ]
「もうちょい書く事あるやろ、普通。短いっちゅーねん」
やる気のなさそうな受け答えに、白石は呆れた顔で言い返した。
「ところでお前んとこ、何のために八百長したんや?」
[んー?]
話しを変える白石に、仁王は何のこっちゃ、とでも言いたげな適当な声を漏らす。
「言っちゃ何やけど、立海が名古屋星徳に負けるとは思えんからなぁ。聞いた話やと、ダブルス1とシングルス1は圧勝やったみたいやし。そう考えるんが普通やろ?」
[ふっ…。さすが、四天宝寺の部長はよく周り見てるのう]
「ちゃかすな。…どうせお前の差し金はなんやろ?」
[一応部長の指示じゃ]
シレッと答える仁王に、白石は肩を竦めて呆れた表情をした。
声には出していないが、それでも雰囲気はしっかり伝わったらしい。
[…おい、今絶対呆れたって表情したじゃろ]
見事に言い当てられ、白石は今度こそ声を、電話越しでもわかる大きな溜息をついた。
「さすが、詐欺師は雰囲気読むの上手いなぁ?…で?結局何で無敗の掟曲げてまで八百長したん?」
軽口から一転、そこそこ真面目な声を出す白石に、仁王は即答した。
[ウチのエースを覚醒させる必要があったんよ]
「…………」
手のかかる後輩なんじゃ。
そう言う仁王の声が、言葉とは裏腹に優しげで楽しげなのを、白石はしっかりと聞き取っていた。
(…あの自己チューが随分変わったもんやな……)
面倒な事はとことん避けて通っていた性格の従弟が、いつの間にか後輩育成に手を貸すようになっていたとは…。
三年という月日の長さを感じた。
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