道化師と堕ちた天

□リクエスト
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夏休み最後の一週間。その内の貴重な数日を、彼らは共に過ごしていた。
ソレは中学校生活最後の夏休みにして、初めての出来事。部活を引退した今だからこそ出来る過ごし方だった。







「クーちゃん、マーくんっ、こっちこっち!」



シートだらけ人だらけの空間の中、立ち上がってコチラに手を振る友香里を見つけ、仁王と白石はやっとの事で人混みを抜け出した。



「姉ちゃん、友香里たちおったぜよ!」

「わかったー!」



仁王は少し離れた場所にいる姉に呼び掛ける。
シートの上で寛ぐ人たちを踏まないよう、友香里のところへ行くと、シートにはすでに、白石の母が、持って来たお弁当を広げており、やまほどある屋台からの匂いにも負けず美味しそうに顔を揃えていた。

大きなシートは大人が十人座っても大丈夫な程あり、楽に足を伸ばす事が出来る。
靴を脱ぎ、辺りをぐるっと見回してから、白石はラムネのビンを友香里に渡して言った。



「ほら、あったでラムネ。…随分良いとこ取れたなぁ。いつから場所取りしてたん?」

「ありがとっ。…勿論場所取り解禁時間からや。折角マーくんたちが来たんやから、良い場所で見たいやん」

「それはありがたいけどの、よくあんな炎天下の中、何もせんで待ってられるぜよ…」



サラッと答える友香里に、心底嫌そうな顔で仁王が口を挟む。



「そんな暑くなかったで?」

「健康的じゃな」



スポッとラムネの蓋を開けながら首を傾げる友香里に、仁王はげんなりと呟いた。

有り得ない、と思っているのが白石には手に取るようにわかる。思わず苦笑すると、思い切りジト目で睨まれた。



(そう睨むなや)

(煩い…)



瞳だけでこんな類のやり取りを交わす。お互いの考えてる事は、この十五年の間にだいぶわかるようになってきた。小さい頃はよく一緒にテニスをしていたものだが、そう考えると随分長い付き合いだな…と、白石は思う。
結局今まで公式戦で当たる事は一度もなかったが…。





「何言ってんだか。アンタが不健康なんじゃろう?」



漸く人ごみをを抜け出して来た仁王の姉が、呆れた様に言った。



「それを言わんでくんしゃい」



仁王はワザとらしく顔を顰めて言い返す。



「ホントの事じゃろー?何でアンタが立海でレギュラーになれたんか、不思議でしょうがないぜよ」

「そりゃ強かったからに決まっとるナリ」

「うわー、ヤな奴」

「そらどうも」



さも当たり前、という顔でのたまう仁王に、仁王の姉は大げさに肩を竦める。こうして言い合っていてもお互い本心でない事は普通にわかっているので、誰も二人を止めはしない。
久しぶりに聞く仁王姉弟の舌戦に、白石は口元を緩めた。





「ちょお、二人ともそれぐらいにして」



白石の姉が苦笑いしながら止めるまで、それはいつまでも続きそうな勢いだった。
そのくせすんなり黙る二人にまたまた白石が苦笑していると、白石の姉が友香里に言う。



「炎天下ん中おるのは別に構わんけど、ここら辺暗なったらバカな若者多いやろ?今日みたい日は特に。何もなかった?」

「あー、うん。平気やで。…実はな、クーちゃん」

「え…、何?」



急に歯切れが悪くなったと思ったら、突然話しを振られ、白石は面食らいながら首を傾げた。





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