道化師と堕ちた天
□リクエスト
1ページ/4ページ
県大会が終わり、仁王が立海に戻って来て数日がたった。
詳しい事を聞かずにいてくれる元レギュラーには、ひたすら感謝だ。
内心、柳あたりに止められているのでは…、と疑う気持ちも実はあるのだが……。
(ジャッカルならともかく、真田が何も言ってこんのは変じゃろ……)
放課後、部活の様子を観覧席から眺めながら、そう思う。
視線の先には、柳と真田にアドバイスを求める切原の姿があった。
こうして見ると、数週間前と何ら変わらない光景だ。財前のスパルタが繰り広げられられていた四天宝寺に比べると、今は立海の方が平和な風景かもしれない。全国大会前は死屍累々としていた立海の方が、だ……。
(財前の圧力、半端なかったしのう…)
美人が怒ると恐いとか、普段キレない奴が怒ると恐いというが、普段無関心で放任主義な奴がキレても恐いらしい。
何だかんだいって、彼も白石の後任。その精神は受け継いでるという事か…。
思わず苦笑いが溢れる。
大会が終わった日の夜、白石からストレートで優勝したと連絡が来た。
周りがたいして強くなかったのもあるだろうが、最初の頃の悲惨な現状から立ち直れたのは、一重に財前の功績だ。
(全国が楽しみじゃ…)
四天宝寺と立海が当たれば、切原と試合するのはおそらく遠山。
それはそれで切原の実力が見れる好カードなのだが、部長対決も見たいのが本音…。
まぁ、どちらにしろ…――。
「ふんっ…、どっちが相手でも、赤也には勝ってもらわんと困るがのう……」
不敵に笑みを浮かべる仁王の向こうで、切原がサーブを放った。
「仁王君?楽しそうですね」
背後から話し掛ける声に、前を見たまま返す。
「まあの」
「何か面白い試合展開でもされていましたか?」
「いや。全国が楽しみじゃなー、と思ってのう」
隣に腰を下ろす柳生に、チラッとだけ視線を向けて言った。
「あぁ、成るほど…」と納得したように呟いた柳生は、自身も視線をコートに向け頷く。
「それは私も楽しみですね」
「じゃろ?」
天才財前が、西のルーキーをいかに操り、一度堕ちたレギュラーをどこまで持ち上げるか…
日吉をトップに据え、鳳、樺地を中心に膨大な人数の中から勝ち上がった精鋭で組まれるであろう、氷帝の新体制――
唯一部長として全国を経験した部長、葵率いる古豪六角
新生山吹は、今度もダブルスを強化して来るのか
天才不二周助の弟、不二裕太率いる聖ルドルフは、全国の切符を手にし、雪辱を果たすか
新体制になった比嘉はどう攻めてくる……
そして、ディフェンディングチャンピオン…
海堂、桃城率いる青学…――
どの学校がどんな試合を魅せるのか。
楽しみではあるが、決して立海が負けるとは思わない。
一番楽しみなのはおそらく、強豪相手に、切原がどんな試合を魅せてくれるのか、なのだろう。
「――…ふんっ、ホント、楽しみぜよ」
.