SS集

□Presents from yous
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10月4日――。



今年もこの日がやって来た。

毎年この日の学校に録な思い出はない。いつも以上につきまとってくる女子どもに、妬みや僻みの視線や言葉をかけてくる男子ども。イギリス時代から繰り返している事だ、いい加減慣れてはいるが、不愉快な事に変わりはない。
家に帰ればパーティや食事会、挨拶まわりなんかを強要され、休まる時間は全くない。本来祝われる立場の俺が他人をもてなさなきゃならねぇなんて、普通なら変な話しだ。だが生憎、俺の生まれ育った環境は普通じゃねぇからな…。

この日はまともにテニスをすることも出来ねぇし。

だから俺にとって、氷帝に来る前のガキの時代、一年のうちで一番憂鬱なのが誕生日だった…。





「せーの!」ジローの掛け声に、全員が声を揃えて俺を祝う言葉をくれる。



「誕生日おめでとー!」

「誕生日おめでとうごさいます!」



直後になるクラッカーの破裂音。頭上に打ち出された紙テープがそこら中に降ってくる。



「はい、俺からのプレゼント」

「あぁ、サンキュー」



カゴに入った、ドライフラワーで作られた生け花。…いや、フラワーアレンジメントか?とにかく、和と洋が上手く調和しているものを差し出す萩之助。
萩之助を皮切りに、他の奴らも次々俺に大小様々な形の包みをよこす。


忍足からは金属を加工して作られた栞。
向日からは何かの鳥の羽と装飾品で作ったネックレス。
宍戸は綺麗にデザインと塗装がされた木箱。
ジローは何本もの糸を複雑に編み合わせて作られたストラップ
日吉はシンプルだがしっかりした作りの写真たて
鳳からは見たことのない曲の楽譜。
樺地は細か模様が彫られたオルゴール。
そして全員から手作りのケーキ。


「おめでとさん、跡部」

「クソクソ、スゲー時間かかったんだからな!ぜってー大事にしろよ!」

「たく、プレゼント用意すんのにここまで時間かけたの初めてだぜ」

「跡部っ、俺ちょーガンバったC!」

「文句は受付ませんから」

「すいません、俺の作れるモノって言ったらコレしか思いつかなくて…」

「…ウス。おめでとう、ごさいます……」



それぞれ好き勝手言いやがるが、それでも全員、しっかり俺の希望したモノを用意していた。それもどれもクオリティが高い。てっきり手作りの菓子や料理ですまされると思っていたが…。



「ふっ。お前ら意外と器用な事出来るみたいだな」

「うるせーよ。良いから黙って受け取っとけ」

「そうだせ!もともとお前が無理難題ふっかけるのが悪いんだろ!?」



手作りのプレゼント――

誕生日にリクエストはあるかと聞いてきたコイツらに、俺がした要求…



向日の言う通り、面倒な要求だという事は最初からわかっていた。それを承知で言ったんだからな。
今まで値の張るプレゼントは捨てる程もらったが、手作りの物は何一つ貰った事がなかった。コイツらがどんな者をくれるのかも興味があった…。

しかも結果は予想外に良い……。



「無理じゃなかったじゃねぇか。良い出来だと思うぜ?…まぁ、礼は言っといてやるよ」



宍戸と向日の反応にサラッと言ってやれば、俺が誉めたのが意外だったのか、礼を言ったのが意外だったのか。――多分前者だろうな。とにかく二人とも驚いた顔をした。
逆に嬉しそうな顔をするジローと鳳。樺地と日吉は表情は変わってねぇが、雰囲気が変わったな。忍足と萩之助はそんな奴らを見て微笑んでる。

お前らはコイツらの親か兄にでもなったのか、と言ってやろうかと思ったが、いつだったか俺も萩之助に同じような事を言われたから言わないでおく。



「マジマジ?俺ってば跡部に誉められちゃったC!超貴重じゃん!」

「俺たち全員やけどな?」



苦笑しながら返す忍足。



「まぁ良いんじゃない?跡部にプレゼントあげてこんな風に言ってもらえるのなんて、俺たちしかいないだろうしね」

「それは言えてますね…」



萩之助の言葉に日吉も頷く。



「つーか、一年のときのお前の誕生日に対する無関心さ、半端なかったよな」

「そうそう!折角サプライズしたのにスゲー淡々としやがって」

「Aー、でもあのとき俺、初めて跡部にちゃんとしたお礼言われたC」



思い出したように言う宍戸に、また向日が食いつく。で、ジローも話しに入って行く…。
良いからお前ら、二年も前の事をいちいち蒸し帰すんじゃねぇよ。ジローに至っては、俺がいつまともな礼をしたかなんていちいち数えるなっ。

まぁ確かに、あの日から誕生日が多少嫌いじゃなくなったんだがな……。



「まぁ、お前らに祝われるようになってから、誕生日がマンネリ化したただの接待日じゃなくなったのは確かだからな」



だから礼ぐらい言うのは当然だろ。そう言うと、言い終わるか終わらないかというタイミングで、ジローが飛びついてきやがった。



「跡部ぇ!」

「何だ…っ」



バランスを崩しそうになるのを、なんとか耐える。
たく、貰った物テーブルの上に置いといて良かったぜ……。

樺地の手助けした方が良いのか迷っている視線に、大丈夫だと頷いて見せ、ジローの体を取り敢えず手で支える。



「俺、跡部の事大好きだC−!」

「あぁ、そうかよっ。良いから、重いし暑苦しい。離せ」

「えー、やだー」

「テメッ…」



聞く耳を持たないジローを無理やり剥がしにかかる。なのにコイツは全体重かけてもっと引っ付いてくる。
もっとやれだの何だの向日が煽り、宍戸は噴出し、忍足と萩之助は苦笑い。日吉に至ってはものすげぇ呆れた顔をしてやがる。オロオロしているのは鳳と樺地だけだ。

ギャーギャー騒がしい部室。

お前らなぁ、さっさとしねぇと閉門時間過ぎるぞ。と言おうと思ったが、何だかんだコイツらが楽しんでいるからやめておいてやる。
俺にとっても嫌な訳じゃねぇからな…。いざとなれば、門ぐらい俺の権限で開けさせれば良い事。

「わかったっ。俺もお前の事は好きだ。だからさっさと離せ」押して駄目なら引いてみろじゃないが、突き放して駄目なら受け入れてみろとでも言ったところか…。
案の定一瞬力が緩まるジローに、今度はこっちから反撃を繰り出す。





「安心しろ、俺はお前ら全員好きだぜ?…だからこれからも俺様について来るんだな――」









うわぁ…。大遅刻ですねι
跡部の誕生日のはずが、手塚どころか柳生の誕生日まで終わってるという…

宍戸の木箱は、皆(忍足、向日、芥川、樺地)からのプレゼントが入るようになっています
鳳の楽譜は、彼の作曲したオリジナル曲という事で…^^;
日吉の写真立てには、この後皆で撮った写真家、全国大会の時のを入れる、のかな……?

ちゃんと話しの中で説明出来なくてすみませんでした…(汗)


タイトルは一応、「あなたたちからのプレゼント」です



(2012/10/21)

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