□冥府の鬼
1ページ/5ページ






寒い。
最初にそんなことを思った。


ひゅうひゅうと冷たい音が耳を刺す。
だんだん手足もかじかんできて、寒さでがたがたと体が震えて来た頃、やっと瞼が開いた。
場所は草の薫るどこぞの獣道。


「どこ、ここ…」


戦国時代…とか、言ってたっけ。
ああ…もうなんでもいい。ここがどこであれ、私はこれからこの世界で生きていかなくちゃいけないんだ。

…もう、寒さで死にそうだが。


「どこか風の当たらない所へ…あれ?」


見覚えのない赤と黒の装束。
巫女のような…いや、巫女はこんな禍々しい格好はしない。首に骨の首飾りがかけてある。
長い髪は結い上げられて、何かで止めてある…が、取ってもまた元に戻す自信はないので触らないでおく。

しかし、なんて趣味の悪い格好だろうか…


「はぁ……今は進もう…。どっかで寒さを凌がなきゃ…」


突然誰かの家の居間に落とされても困るが、もうちょっと落ちる場所はどうにかならなかったものか、閻魔様。
目覚めるのが遅ければ凍え死んでいたんじゃないのかと、勝手な妄想で震え上がった。

ここには救急車もないし…
早速こんな事考えてる私はチキンなんだろうか。
しかし反逆の意を持ったら地獄行きかぁ…もうこの一生は閻魔様を神とでも讃えなければ死後が危ない。



「猫…猫ー…」


呼んでみたが、やっぱり返事無し。
一人で乗り越えていくしかないようだ。ええい、頑張るしかない!

一人で意気込んで、道なりに道を進んでいった。



死んだらあっさり他の時代で生き直す事になった。

やれ、とんでもない事になったと一人深い溜息をついた。





.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ