□冥府の鬼
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寒い。
最初にそんなことを思った。
ひゅうひゅうと冷たい音が耳を刺す。
だんだん手足もかじかんできて、寒さでがたがたと体が震えて来た頃、やっと瞼が開いた。
場所は草の薫るどこぞの獣道。
「どこ、ここ…」
戦国時代…とか、言ってたっけ。
ああ…もうなんでもいい。ここがどこであれ、私はこれからこの世界で生きていかなくちゃいけないんだ。
…もう、寒さで死にそうだが。
「どこか風の当たらない所へ…あれ?」
見覚えのない赤と黒の装束。
巫女のような…いや、巫女はこんな禍々しい格好はしない。首に骨の首飾りがかけてある。
長い髪は結い上げられて、何かで止めてある…が、取ってもまた元に戻す自信はないので触らないでおく。
しかし、なんて趣味の悪い格好だろうか…
「はぁ……今は進もう…。どっかで寒さを凌がなきゃ…」
突然誰かの家の居間に落とされても困るが、もうちょっと落ちる場所はどうにかならなかったものか、閻魔様。
目覚めるのが遅ければ凍え死んでいたんじゃないのかと、勝手な妄想で震え上がった。
ここには救急車もないし…
早速こんな事考えてる私はチキンなんだろうか。
しかし反逆の意を持ったら地獄行きかぁ…もうこの一生は閻魔様を神とでも讃えなければ死後が危ない。
「猫…猫ー…」
呼んでみたが、やっぱり返事無し。
一人で乗り越えていくしかないようだ。ええい、頑張るしかない!
一人で意気込んで、道なりに道を進んでいった。
死んだらあっさり他の時代で生き直す事になった。
やれ、とんでもない事になったと一人深い溜息をついた。
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