短編置き場

□ままに生きれば吉
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武人とは愚劣である。

やれ武士の志ぞ、己の魂ぞと勇み叫んでは自ら人の血散る戦場に身を投して、細長い人斬り包丁で一線、斬り殺しては、将討ち取ったりやら軍功成し遂げたりやらと、さも自分は偉業を成し遂げたと言わんばかりに無意味に胸を張り既に幼少の頃に学びきっているであろう事柄を偉言のように、兵の前におどけて言ってみせる。

そしてそれを、おお、なんと素晴らしき御言葉、おお、なんと崇高のお考えである事かと、まるで今自分の目の前に神が降臨したとでも言わんばかりに褒め讃え、頭を土に擦り付ける。

そのくせその人間が自分の期待にそぐわぬ働きを為せば、自分は騙されていた、こいつでは駄目だと、河川で釣った魚をまた水に戻すように実に簡単に主を捨てる。
それを気に入らんとする主は、やれ背信卑怯也とそやつを討って出るのである。


どちらが飼われているのかも分からぬ。
ここまでくれば、最早愚犬の馴れ合いであろう。



「そうは思わぬか、杉よ。」

「五歳で母親と別れ、十歳で父を失い、十一歳で興元様が京都に上がられてみなし子になられた貴方様だからこそ、杉は今の今まで元就様がしっかとこの戦国で生きてゆけますよう、養母として奢り無く支えてきたつもりでございます。何故そのように物事を屈折させた考えに及んでしまうのか、杉には理解しかねますが。」

「そんな其方だからこそ聞いておる。どうせ、奴らは自らの志とやらを放棄した途端、蠅打を持って倦怠をふけるのであろうが。」

「だからこそ、人とは志をもって世を生きようともがくのではありませぬか。」

「それが分からぬというのだ。」


倦怠にふけたいのであれば、刀を捨てどこぞの村家にでも移り住んで、いくらでも怠ければ良かろう。
がちがちと体を震わせながら、それでも我の元で死に絶えようとする己の駒達が時々分からなくなる。

死にたくなくば、元々毛利家に仕えようと門を通らねば良かったのだ。


「そんな事を言っていたら、いづれは貴方様がお困りになる。」

「だからこそ其方に聞いていると何度言わせる。」

「ああ…成る程、そのような所は相変わらずお変わりない。」


杉大方はふっと笑って、俯き少し考えた。
紙と筆を取って、さらさらと何かを描き始めた。



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