短編置き場

□Trick or treat
1ページ/1ページ





「はろうぃん?なんだっけそれ」


真っ白な天井と幸村の顔を目一杯視界に捉えながらふかふかの布団に身を預けてシラを切った。
ハロウィン。
10月31日に催されるイベント。お祭り。お祭りと言えばどっかのチャラい風来坊が頭をよぎったが今はどうでもいい事なので無視だ。
要するにハロウィンとは子供がお化けに仮装してお菓子くれと大人にせびる行事のことだ。詳しい事はしらない。
だがまぁとりあえずハロウィンという名のイベントぐらいは知ってる。
知っているからと言って、この状況はどう説明をつけたものか。


「シラを切られては困る」

「困るもなにもアンタの格好とこの状況じゃどう考えたってハロウィンって何なのかわかんなくなるわ」


今の幸村の格好。
耳に獣耳を付けて黒いコートを羽織り、コートの下には白い包帯で素肌を隠している。
そんな格好。


「色々混ぜるなよ」

「一度に3粒おいしいを体現してみたかったのだ!」

「どう考えても方向性間違えただろ」

「そうだ。つい先程鏡を見て気付いたのだが手遅れでござった」


お前の頭が手遅れだよ。病院行け。
獣耳を取りながら唇を尖らせて拗ねたような態度を見せた。拗ねられても困るんだが。
それにしてもなんだ。
いつ私の両手は開放されるのだろうか。
現在私と幸村はベッドの上。おまけに幸村は仰向けに寝っ転がる私の上に馬乗りになり、片手で私の両手を頭上に一纏めにしているのだ。つまり、私は全く身動きが取れない。
ピンチと言えばピンチなのだ。
こんな呑気に会話を交わしてるのが不思議なくらい。


「そう言えば今日は土曜日でござったな」

「あー、うん」

「良かったでござるな」

「………なにが」


いや、本当は聞きたくないが。
でもそんなにやにやと悪どい笑みで良かっただなんて言われたら人間の心理として気になるじゃないか。たとえ嫌な予感がひしひしとしていても。


「随分と落ち着いておるではないか」

「いやもうなんか流れ的に分かっちゃったと言うかもう好きにしろって言うか」


ほう。と少しだけ目を見開いて驚いたように軽く首を傾げた。
まぁ元より抵抗なんて意味が無いだろうしする気も無い。
というか、問いに答えてくれなかった時点でもう全部諦めた。
長年一緒に過ごしてきたせいなのか、私は幸村相手だと妥協するしか選択肢が残されて無いように思えてくる。


「判っておるではないか」


言いながら羽織っていたコートを脱ぎ、体に巻いてあった包帯をほどいていく。全部取るなら最初から仮装紛いな事をしなければいいのに。やっぱ頭の病院行け。
しゅる、と包帯がほどかれていくと、幸村は上半身裸になり、その絞りに絞られた筋肉を惜しげもなく私の上で晒した。


「…露出魔め」

「の、割りに顔が赤くなっておるようだが?」

「みっ見てて恥ずかしいだけだ馬鹿野郎」


どうやら確信犯らしい。いやらしい笑顔で見下ろしてくる。
そりゃあ初めてこんな明るいところで幸村の上半身を見たんだから顔が赤くならないわけないだろうが。…黙れ心臓!


「それにしても包帯を身に付けておいて正解だったやもしれぬ」

「…なんか使い道でもあんの?」

「うむ」


幸村は少し身を乗りだし、頭上に一纏めにされている腕へ包帯を持っていく。
その際に上半身裸の幸村の胸板がものすごく目の前に迫って、これは何かの拷問かと勘違いしそうになった。…だから心臓黙れって!
暫くして幸村が元の姿勢に戻ろうとした時、ちょうど鼻の頭を胸板が掠め、心臓が思いっきり跳ねたが、気付かれなかったようで安心した。
ところで幸村は何をしてたんだ………ちょっと待て。
腕に違和感が。


「ほれ、こういう風な事に活用できるであろう?」


にっこりと至近距離で言った幸村の両手は私の頭の横に手をついている。
……………しまった!!


「拘束しやがったな!」

「ハハハ、いくら足掻こうとも無駄にござる!何せベッドの格子に何重にも巻き付けたのだからな!」

「この…っ、お前は包帯の使い方を間違えている!正しい使い方をもう一度中学生の保健体育からやり直せ!」

「実はこの使い方が一番正しく、りいずなぶるだと中学校の保健体育の教科書にも書いてあったのだ」

「オイ、平気で嘘ついたな今。そんな保健体育の教科書があったら貰ったその場で燃やすわ。あとリーズナブルって政宗に教えてもらったのか」


でも確かに頑丈でいくら腕を動かしてもほどける様子が無いのでもう本気で諦めた。
こういう流れになるとは思わなかったがどうせこの後に待ち構える展開に大差は無いのでどうでもいい。こうなったらとことん妥協してやる。


「これも付けてみたら可愛いのではなかろうか」

「………」


たとえ、抵抗出来ない彼女に対して獣耳を勝手に付けたとしても。
妥協してやる。
妥協、してやる。


「実に蹂躙し甲斐のある状況だとは思わぬか?ん?」

「その状況を作り出したのは幸村だけどな」

「そうだな。まこと、可愛らしいでござるよ」

「おい、聞いてんのか人のはな、し…」


ペロリ、と舌舐めずりをした幸村が酷く妖艶過ぎて、言葉を無くした。
私が妥協するのはこれがあるからなのかもしれない。ああもう、やだやだ。これだから私は。
幸村は妖艶に振る舞った後、何事も無かったかのようにいつもの天使の笑みで手を合わせてこう言った。


「とりっくおあとりいと!」


いただきます、みたいに言うな。










お菓子くれなきゃ
イタズラするぞ!



(私がお菓子だとしても)
(結局イタズラしてるじゃんか)










.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ