短編置き場

□死に晒せ
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「駄目だったんだ?」



血まみれの彼。
殺された主。

たった一人無傷の、私。


「随分上手く裏切ってくれたじゃない…君にしちゃ上出来…この、狐女、」

「狐女?言ったでしょ、真田幸村は私の親の仇だって。仇を討って何か悪い?」

「は……最後に見る顔が裏切り者の顔だったなんて、旦那にゃ悪いけど笑えたもんじゃないね。」


真田幸村に近づき、殺した。それがどうした。私にはそれが必要だった。
敵討ちに何の意味があるという正義を振りかざした意見もあるのだろうが、私は思う。

敵討ちにも、日々の鬱憤を発散するくらいの効果はある。
父上の首を持ち上げただお館様と喜び勇んでいた憎き男はもういない。清々する…私が自分の殺した男の娘だと知った幸村の顔は、何と心晴れるものであったことか。


ああ清々した、明日からはしっかり前進することにしよう。
私はこれでもう…



「随分利口な女だったね…大将には何したの?病でぽっくり逝ったみたいだけど、それは…」

「毒。海の外から取り寄せた貴重な薬よ。流石にアンタにも分からなかったみたいね、無臭無味の透明液体状の死毒。」

「手の凝った事するよ…」



彼の口からごぽっと血が溢れて、地面に赤黒い染みを作る。私はただそれを見下ろして、毒刀を鞘に納めた。

彼の体が小さく痙攣を起こして、傷口から血がさらさらと流れていく…それはもう、ぞっとするくらいに。
私の目的は武田信玄と真田幸村…それだけだった。忍が舞い込んでくるとは予想外だ。


幸村を庇って、毒刀を食らった。
忍は毒に強いらしい…後に食らった幸村より長く息をしているが、いくら毒に耐性があると言ったって限界というものがある。



「馬鹿ね…引っ込んでれば良かったのに…」

「何の為の忍だと、思ってンの……アンタ…ッ、これから、どうするんだ…?」

「それを聞いてどうするの?ああ、幸村への土産話にでもするつもり?」

「……ッゲホ、ふざけんなテメェッ…!」



佐助が振り上げたくないは避けようとも思わなくて、気付いた時には黒光りする刃物が私の横腹に埋まっていた。
鈍い痛みが走り、私はうめき声のようなものを上げる。

膝を付いて傷を見れば無傷だった私の体から出血が起っている。これならまだ手当てすれば間に合う筈…



「ッチィ…!この、猿…!!面倒な事を!」

「ざまぁ見やがれ、ッ、俺は…」



私の胸ぐらに掴み掛かって、だらだらと血を吐きながら顔に迫った。

狂気じみてる。
そんな目をしてた。



「ろくでもない人生だったんだ、死んだ後くらい贅沢させてくれよ。」

「――な、」



ずぶり、



喉に食い込んだのは、彼の牙

目の前を染め上げるは、私の鮮血



「が……ッ…!」

「はは…焼きが回ったもんだ、俺も…悪いね…最期、くらい、一緒に逝かせてくれ、」



倒れた彼を、私は知らない。

そのとき既に私は血だまりで酸素を求めてもがいていて、意識朦朧とする中で頭に思い浮かんだ事は"死にたくない"の一点張り。
偶然触れた彼の冷たい手を握り、最初で最後のお願いは無様な程自分勝手なものだった。



「たす、けて…」



まるで悪役の最期のシーン。

命が危うくなると藁にも縋りたがる悪役の性。

佐助、アンタを殺すつもりはなかった…ほんとよ。



「は、頼りにならない男…」



好いた女の願いの一つも聞けないなんて、男失格でしょう。








に晒せ
貴方も私も満身創痍だ






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