イナズマイレブン
□父親なりの考え
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試合は劣勢。こんなことあり得ない。このオレがゴールを二度許してしまうなんて…オレはこのまま雷門に負けてしまうのではないか…!?
「うっ……」
嫌な夢から目が覚めた。
はーっとため息が勝手に漏れる。決勝戦で負けるなんて、そんなダサいこと出来るわけねーだろ。
近くの目覚まし時計は2時過ぎ…半端な時間に起きちまった。
二度寝しようとも、動揺しきった心臓がうるさくて全然眠れやしない。
明後日に控えた決勝戦。予定では雷門と戦うのは聖堂山の奴ららしいが、準備は怠るなと親父が言っていたのを思い出す。きっと何かするんだろう…。
いろいろ考えながら、何度も寝返りを繰り返した挙げ句、オレは寝るのを諦め水でも飲みに部屋を出た。
リビングの扉の隙間から細い光の線が、暗い廊下に伸びていた。
誰だろう…扉を開けると、ソファに座っていた親父が読んでいた新聞から顔をあげた。
「大和、こんな時間まで起きていたのか?」
笑いかけてくる親父に、違えーよと手を振りながら、オレはキッチンへコップを取りに行く。
「私は麦茶がいいな」
新聞に目を戻していた親父がさりげなくオレに注文をつけてきた。
親父に聞こえないように少し文句をつけ、手に麦茶のコップを二つを持ってきてソファの前のテーブルに置いた。
「ありがとう」
「べつに…」
ただ礼を言われただけなのに、なんだか恥ずかしい。どかっと親父の隣に座ると、親父の膝の上で寝ていた『くろすけ』がのんびりと目を開けてまた閉じる。こいつホントオレになついてくれないな……
「くろすけは本当に大和に懐かないな」
オレが思っていたことをそのまま口にした親父に、思わず飲みかけの麦茶を吹き出しそうになる。
「拓人ん所の猫の仔だろ、マジで親子そっくりだぜ。愛想なさすぎな所とか」
くろすけは神童家の飼い猫『くろ』の子供だ。拓人から仔猫が一匹産まれたとは聞いたけれど、まさかその仔を親父が引き取ってくるとは思っていなかった。ちなみに、くろすけの名付けは親父。
オレはくろからも、くろすけからも全くなつかれない。
「大和は練習ばかりであまり家に居ないからな、しょうがないよ」
「それ親父もだろ」
親父は大概オレが寝る前か寝ている時に帰宅して、オレが起きたらもう出かける準備をしている。
反乱が盛り上がってきてからは、親父はもっと忙しそうだった。
「私はあまり家で寝ないからな」
そう言われてようやくオレは気が付いた。テーブルにどっさり積まれた何かの書類と数社の新聞紙。
「これ書斎でやればいい話だろ」
フィフスセクターのマークが見える書類を顎で指す。親父は新聞を読みながら麦茶を飲んだ。
「書斎は誰も来ないからな。此処に居た方がみんなに会えるんだよ」
そういえば親父が書斎居ることは滅多にないかもしれない。家にいる親父といえば、いつもココでくろすけと遊んでいることくらいしか印象に残って居ない。
「6時には母さんが起きてきて、それから30分後にはおまえが起きてきて…それに、くろすけも夜中一人なのは寂しいだろう?」
名前を呼ばれたくろすけがあくびをした。親父がくろすけの頭を撫でると、その手をくろすけが舐めた。
「へぇ…」
上手い返しが見つからず、適当にあいづちを打つ。
いつもフィフスの仕事とたまに監督(親父は大概オレにチームを任せている)の仕事ばかりの親父が、家族のことを親父なりに考えていたなんて知らなかった。
「私なりの家族団らんというわけだな」
親父がくろすけから手を離し、オレの頭を撫でた。
「わっ、ばか。子供扱いするなよっ」
「ははは、大和も大きくなったな」
「はぁ?なんだよそれ」
ワケ分かんねー。
そういえば、親父に頭撫でられるのとか…何年ぶりだろう。そんなことを思いながら、口だけは嫌がっておいて、本当は久しぶりのこの感覚が恥ずかしくてそれでも懐かしくて心地良く感じた。
「親父」
「なんだい?」
「さっき嫌な夢を見たんだ。内容は言いたくないけど、すごく嫌な夢だった」
雷門に負ける夢なんて親父には絶対言いたくはない。大事な時に、夢とはいえ親父を心配させたくはない。
でも、誰かにこのことを話さないと、いざ雷門とピッチの上に立った時、恐れが来そうだったのだ。
「そうか…夢で良かったな」
「え」
この人は正夢を知らないのか。なにが面白いのか、横顔はにこにこ笑っている。笑いながら、読んでいた新聞をぱたぱたと畳み、テーブルに置いた。
「なぁ、大和」
「な、なんだよ親父」
「ホーリーロードが終わったら、久しぶりに私とサッカーしないか?」
「おっ、おう」
頷いて、久々の親父とのサッカーが楽しみになってくる。親父とサッカーなんて小学生以来だ。
「楽しみだな」
「へへっ、オレも」
「さ、今日はもうお休み。明日に響くぞ」
「親父こそ、ちゃんと寝ろよな」
「ははは。息子に心配されるほどでもないよ」
部屋に戻り暗がりの中、僅かに熱が残る布団に潜り込む。
いつのまにか、オレの中で夢の恐怖はなくなっていた。
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勝ちへの自信を持った大和と、革命の結末を悟った大悟。
父の日
親父がサッカーのために頑張っている姿がカッコイイです。
いつもありがとう。 (やらせ)