イナズマイレブン

□君がくれた夏
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 空調の効いた病室から入道雲をつまらなそうに眺めた。こんな天気のいい日は思い切りサッカーに打ち込みたいな。思うようにサッカーが出来ないなんて…
 目線を外すと無意識のうちに通信学校から届いた手付かずの夏課題を見てしまい、僕の気分は一層沈んだ。
「太陽?」
 そんなとき、ノック音と共に大好きな声が聞こえた。ドキリと心臓が喜んで、僕は入って入ってと彼を招き入れる。
「拓人!!来てくれてありがとう、会いたかったよ」
「久しぶりだな、太陽」
 病院は涼しくていいななど言いながら、汗だくの彼は僕の頭を撫でてくれた。
「今日は部活が半日だったから、会いに来たんだ」
 見舞いの菓子を出しながら拓人は楽しそうに近況を話しだした矢先、課題に気付きくつくつと笑う。
「太陽も夏休みの課題が出ているのか」
「ど、どうせ全然やってないよ!!拓人はとっくに終わらせたんでしょ?」
 うんうん頷く拓人。一日中病室で暇を持て余している僕が何もしていなくて、夏休みも毎日のようにサッカーに励む拓人がもう課題を終わらせているなんて考えたら勝手に口がへの字に曲がる。
「太陽、オレが教えてあげるから、一緒に課題を終わらせようか。授業にも出られなくて、大変だろう?部活後にでも、オレが一から教えるからさ」
「本当!?」
 思いもよらぬ言葉。それって毎日拓人に会えるってことだ!!僕の気分は有頂天になった。

  ◆  ◆  ◆

「来年までに絶対退院してやる…」
 一週間で課題を仕上げたなんて僕の武勇伝だ。右手はまだ震えが治まらない。出来上がった課題をチェックしながら拓人は満足そうに頷いた。
 お世辞にも拓人のご指導は優しいとは言えず、ストイックなものであった。僕は終日次回までにこなす課題を、拓人が訪れるまでに仕上げるのに必死になった。
 拓人は仕上げた課題を見て、頭を撫でてご褒美のキスをくれるんだ。そのために頑張ったものだ。
「オレもピアノコンクールが近づいていて来れるのも夏休みはこれが最後なんだ」
「そんな…そんな話聞いてないよ」
 突然のことに胸が詰まる。拓人はちゅっとキスを落とす。
「今日はお土産を持ってきたから」
 紙包みから出したのは風鈴。太陽と雲の絵に、音符が描き足されていた。
「これって、僕と拓人?」
 拓人は頷いて、クーラーを止め窓を開ける。カーテンレールにぶら下げた風鈴が軽い音を立てた。
「これからはこの風鈴をオレだと思ってほしいな」
「次来てくれる時は、コンクール優勝のメダル持ってきてよね!!」
「ああ!!」

  ◆  ◆  ◆

 夏ってこんなに暑いんだっけ。湿った空気が体にまとわりついて、汗が噴き出る。うるさい蝉の声と、街の音が耳に響く。
 何回クーラーをつけようかと思ったんだろう。

 ちりん…

 でも、この音を聞くたびにそんなうっとうしい夏もいいかな、なんて思う。
 だって、拓人が…君がくれた夏だから。



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2012年の暑中見舞いB

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