イナズマイレブン

□おあずけがまてない飼い犬
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 今日は河川敷で花火大会の日だ。オレは大和と一緒に浴衣姿に身を包み、普段サッカーの練習場所にしている河川敷へ向かった。
「さすがに人が多いなー」
 頭をかきながら人込みを進む大和。湿った夏の空気に、花火を見に人たちで更にむっとした中、大和とはぐれないようにすることに必死になる。
「大和、待って…!」
 履き慣れない下駄につまずきそうになり、咄嗟に大和の振り袖を掴んだ。
「あ、ごめ…」
「いっ、いいよ…それより、こっちの方が、はぐれないだろ」
 ぶっきらぼうな口調で言い、大和は袖を掴んだままのオレの手を握った。
「大和…」
 手を握ったまま歩きだす大和の名前を呼ぶ。
「その、気付かなくて悪かった」
 微かに聞き取れる声で、大和はオレに謝る。大丈夫だと返す代わりに、オレは手を握り返した。
 打ち上げ始めた花火のお陰で誰も手をつなぐオレたちを見ることはなかった。

  ◆  ◆  ◆

 出店で買い食いをして腹も満たしたところで、土手に座り花火を眺めた。
「きれいだな…」
 打ち上がる花火に見とれて、思わず感想をつぶやく。
「ああ、そうだな」
 些細な言葉にも反応してくれる大和に一層愛しさを覚えてしまう。思わず頬を赤らめてしまい、肩をすくめた。
 そのまま、そっと大和の横顔を盗み見る。スカイブルーの瞳に打ち上がる花火がキラキラと輝いている。浴衣姿の大和にいつも以上の凛々しさを感じ、胸が高まる。
「───拓人」
 ふいに大和がこちらを見てきた。驚き、目線を逸らそうとしても、もう遅い。見惚れていたばかりの瞳に見据えられて、名前を呼ぼうとした声が出ず、息を呑んだ。
 何か言わないと…。気が焦り口をぱくぱくさせた。そんなタイミングを見計らったかのように、打ち上げ花火が乱射しはじめた。毎年恒例のクライマックスに沸き上がる歓声。オレも花火を見ようと目を逸らした。
 と、つないでいた大和の手が解け、顔を引き寄せられた。
「なっ…!」
 言い切る前に唇が塞がれた。見開かれた目に、花火に明るく照り映える大和が映り慌てて目を閉じる。口腔に滑り込んできた舌に、自分の舌を絡ませるのに必死になる。舌を吸われ、唾液を吸われ、口腔を犯されたあと、ようやく大和が口を離した。糸を引いた唾液が光に反射していた。
「やまと…」
 ぼやけた頭の中で愛する人の名前を呼ぶと、草むらの上に押し倒された。
 と、視界の隅に打ち上がる花火にはっと我に返り、近づく大和を思わず蹴り飛ばした。
「いてっ!!なにすんだよ!!」
「なにすんだよはこっちのセリフだ!ばか!!」
 オレは起き上がって周りを見た。奇跡的にも、周りは花火に夢中でオレたちに気付いていない様子だった。ほっと胸を撫で下ろし、大和を見ると、相当しょげているようだ。
 ため息をつき、唾を飲み込むと大和の味がした。
「…大和、今夜うちに泊まりなよ」
 思わずそう言ってしまう。花火みたいにぱっと明るくなる顔に、オレは微笑み返す。ドンドン鳴り響く花火の音が、オレの心臓みたいだった。
 オレだっておあずけはキツイんだからな。

「そ、そうだ大和…」
 焦る気持ちが勝手にオレを立ち上がらせた。ほとぼりが冷めきれない体は大和を求めていた。
「花火終わったあとは人が込むから先帰ろうぜ」
 大和の言葉にオレは驚いた。
 なんだ、考えることはお互い同じか。手をつないで、オレたちは笑いながら河川敷を後にした。



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2012年の暑中見舞いA
あいつの頭の中→おあずけができない飼い主

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