イナズマイレブン
□おあずけができない飼い主
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今日は拓人の近くの河川敷で花火大会の日だ。神童家から出てきた浴衣姿の拓人に見惚れて、早々拓人に笑われてしまった。
そんな拓人に案内されるように着いた河川敷は毎年恒例の人の多さで、思わずため息がでる。
「さすがに人が多いなー」
むしむしした気温にさらに人の熱気にイラつき、頭を掻きながら前を進む。
「大和、待って…!」
振り向くとつまづきかけた拓人が咄嗟に俺の袖を掴んでいた。
「あ、ごめ…」
なんでおまえが謝るんだよ。袖を掴んでいる拓人の手を握りしめる。拓人は目を丸くして、頬を赤らめた。
「いっ、いいよ…それより、こっちの方が、はぐれないだろ」
我ながらひどい言い訳だ。これ以上拓人の顔が見られなくて、さっさと歩きだす。
「大和…」
「その、気付かなくて悪かった」
後ろから名を呼ばれ、後悔したくない思いでそっと謝る。
聞こえたかな…拓人の顔を見ようとしたら、ぎゅっと手を握り返された。
◆ ◆ ◆
オレたちは出店で買い食いをして、土手に座り花火を眺めた。
「きれいだな…」
「ああ、そうだな」
隣からのため息混じりの感想にオレは頷く。拓人は昔から見るものになんでも感想を呟く。そんな拓人の純粋で素直な感想に答えてやると、頬を染めて喜んでくれる。
オレはいつも拓人のことを考えているんだな。花火を眺めながらそう気付いた。拓人は頑固で泣き虫で、どこまでも努力家だ。だからこそ傍に居たいと思う。だが、知らないうちにオレが先を歩いてしまう。
「拓人、」
これからはずっと二人、手をつないで行こう。
そう言おうと思っていたのに…拓人がこちらを見ていて、言葉を見失ってしまう。
拓人は動揺しきって顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせていた。わずかに湿った綺麗な唇に、花火の光が艶やかに反射している。
吸いよせられるように拓人にキスをしようとしたタイミングを見計らったかのようにクライマックスの花火が打ち上がる。
目を逸らそうとした拓人に、オレはつないでいた手を解き拓人の顎を持った。オレから目を逸らそうなんて、そうはさせない。
「なっ…!」
驚きの言葉を塞いでしまう。キスしてみると、案外拓人はすんなりとオレを受け入れた。口腔をまさぐると、それに応えようと必死になる拓人がまぶたの裏に浮かぶ。
口を離すとオレたちの唾液が透明の糸を引いた。
「やまと…」
とろけそうな表情で拓人がオレを呼んだ。やばい…ガマンできねー…本能に従って拓人を押すと簡単に草むらに倒れてしまう。はだけた浴衣から覗く色白の肌に思わず生唾を呑んだ。
首筋に噛みつこうと顔を近づけると、目の色を変えた拓人がいきなりオレの腹を蹴り飛ばしてきた。
「いてっ!!なにすんだよ!!」
「なにすんだよはこっちのセリフだ!ばか!!」
あまりに急なことで頭が回らない。オレは拓人に言い返す言葉も考えられず罪の意識に苛まれた。こんな場所でいきなり襲ったせいだよな…
花火と人込みの音の中、拓人のため息が聞こえた。
「…大和、今夜うちに泊まりなよ」
遠回しにもらったオーケーに喜ぶと、拓人は照れ臭そうに笑い返す。
正直、おあずけはキツイけどな。
「そ、そうだ大和…」
立ち上がる拓人はどこか急いていた。その表情にオレは期待を込めてニヤリと笑う。
「花火終わったあとは人が込むから先帰ろうぜ」
オレの言葉に拓人は目を丸くした。
なんだ、考えることはお互い同じか。手をつないで、オレたちは笑いながら河川敷を後にした。
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2012年の暑中見舞い@
あいつの頭の中→おあずけがまてない飼い犬