イナズマイレブン
□だれも知らないかえりみち
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どうしてみんなおれを見て笑うの?
赤いランドセルが女の子みたいだから?
おれのかみの毛が女の子みたいだから?
学校なんて楽しくないよ…かなしいよ…さみしいよ…
「らんまるくん、泣かないで…おれ、らんまるくんの赤いランドセル好きだよ」
「え?」
顔をあげたらクラスメイトのたくとくんが、おれにハンカチを差し出していた。
それを受け取ると、たくとくんは笑顔をおれに見せてくれた。
はじめておれに笑顔を向けてけれたひと。
はじめて学校にいて楽しいと思えたひと。
たくとくんは、おれのはじめてのおともだち。
『だれも知らないかえりみち』
たくとくんはヘンな人だった。
ランドセルやかみの毛のことで、クラスでからかわれていたおれに、はじめてちゃんと話しかけてくれたひとだったし、おれのピンクのかみも、おばあちゃんからもらった赤いランドセルにも全然イヤな顔をしなかった。
「その赤いランドセル、らんまるくんのかみの毛と合ってて、すきだよ」
にっこり笑ってそう言われたことを、おれは忘れたことがない。
たくとくんから話しかけられた日から、おれとたくとくんはいっしょにいるようになった。
学校の休みじかんも、そうじのじかんも、いっしょ。「しんどう」っておうちは、おれの通学路だから行き帰りもいっしょだった。
あんな大きなお城にひとが、しかもたくとくんが住んでいたなんて、びっくりだった。
「らんまるくん、いっしょに帰ろう?」
ほうかご。いつもみたいに、たくとくんが黒いランドセルをしょっておれの席まできた。おれは急いで教科書をつめこんで、たくとくんとならんで歩き出した。
「うわー!!みろよ!!ラブラブのカップルが今日もいっしょにかえってるぞー!!」
「ほんとだー!!おとこどうしで、きもちわりー!!」
教室に出る間もなく、いつものようにクラスからのからかいがはじまる。
おれはこれが大きらいだ。ひとりでかえっているときも、もちろんきらいだった。でも今は、たくとくんもまきこんでいるから、むねがチクチクして、たくとくんに申しわけない気がすごくするんだ。
たくとくんはイヤな思いをしていないのかな?
不安そうにたくとくんを見ると、たくとくんはそんなおれに、にっこり笑ってみせた。 どうして笑えるんだろう。こんなにたくさんの、からかいをうけて。
ろうかに出てすぐ、思わずおれは歩くのをとめた。
「どうしたの?早く行こうよ」
「さきにかえって」と言いたいのに、声がでない。動かないおれに、たくとくんはおれの手をにぎった。おれよりすべすべしてて、おれよりやわらかくて、おれよりあたたかい手だった。
「手つないだーーーーーっ!!」
「あっ…ねぇ、たくとくんっ…!」
いっせいにザワついたクラスを、とてもじゃないけれど見れなくて、まっ赤な顔でうつむいた。あまりの大声に気づいたのか、他のクラスのひともいっしょになって、さわぎ立てるのがわかる。
おれの大切なおともだちのたくとくんまでいっしょに、ろうかの真ん中で…つったったままで…
たくとくんに手を放してなんてひどいことは言えないけれど、早く手を放してほしい。なのにたくとくんは、もっとつよくおれの手をにぎりしめた。いたいくらいに。
「こんなの気にしちゃダメだよ」
たくとくんは耳元で、そっとおれに言った。返事ができないままのおれを、たくとくんが引っぱるように歩きはじめた。
顔をあげることができないおれは、前を歩くたくとくんの足をずっと見た。どうどうとして…こんなところで、おれにはぜったいできっこないことを、たくとくんはおれの手をにぎったまましている。
しばらくすると、うしろで「シンさまにヒドイこと言わないで」とつよい口調の数人の女の子たちの声が聞こえた。さわぎ立てていたひとたちが「うっ」とたじろいでいる。
そのままろうかを歩きつづけたおれたちは、とうとうからかいから逃れることができた。
昇降口に着いたたくとくんは、「やったね」と笑った。おれもつられて「うん」と笑いかえした。
学校から出てようやく、たくとくんと並んで歩けた。たくとくんはさっきのからかいがなかったみたいに、にこにこしたままで、おれに何か言うわけでもなく歩いている。おれはまだむねがチクチクして不安なまま、たくとくんを見た。
「どうしたの、らんまるくん?」
「ごめんね…たくとくん」
「え?」
おれの声が小さすぎて聞き取れなかったのかな。
あのね、と言ったらたくとくんは「どうしてあやまるの?」と今度はおれに不安げな顔を見せた。
「どうしてって…イヤでしょ?…おれといっしょにいると…いつもこんなことばかりで…」
「どうして?」とまた聞き返してくるたくとくん。
たくとくんは、おれの言った意味が分からなくて不安げな顔をしているだけだった。
おれはたくとくんと歩きながら悩んだ。
よく考えたら、さっき大声でさわぎ立てられたのも、たくとくんがおれの手をにぎったからで…あたまがこんがらがってきた。
「おれ、らんまるくんのこと、きらいじゃないもん」
答えをさがしていたら、たくとくんがうれしそうに言った。おれはなぜだか涙があふれてきた。
「でも、でも、おれといっしょだったら…」
「からかうひとなんて、気にしちゃダメだよ」
さっきろうかで言ったことを、たくとくんはくりかえした。
そしたらおれの目から、ガマンしてた涙がぽろりとおちた。
「あっ」
はずかしい!!
いそいで涙をぬぐおうとするおれの手を、たくとくんは両手でぎゅっとにぎりしめてしまった。いきなりのことにおどろいて、おれは泣いている顔をたくとくんに向けてしまった。
「ねぇ、らんまるくん」
「み、見ないで!」
「らんまるくん」
「たくとくんっ…はずかし…」
なにがおこったのかわからなかった。
いきなり声が出なくなったと思ったら、くちびるが、なにかやわらかいものにふれていた。そのやわらかいのがはなれたら、すこししめった空気がふれた。
「なにも、はずかしくないよ。おれだって、泣くから」
にっこり笑って見せたたくとくんのほっぺたから、たくさんの涙がおちていった。
たくとくんは、ごめんね、ごめんねとあやまりながら、つよくつよくおれの手をにぎった。いたいのを通りこして、なにも感じない。
今、おれ、キスされたんだ…たくとくんに…
あまりにも急なことで、いまいち分からなかった。あれが…キス…。映画やドラマでよく見たことがある…。でも、キスをしているのは大体が大人のひとだった。おれたちは、まだ小学生で…。たくとくんは男の子で、おれも男の子……
おれよりたくさん涙をながすたくとくんに、おれはなにも言えなかった。
「らんまるくんが、おれのことおともだちだって思ってても、おれはらんまるくんのことおともだちだって思ってないの」
おれは目を丸くして、たくとくんにつめよった。
「でっ、でもたくとくんはいつもおれといっしょに…」
そうだね、とたくとくんははなをすすって、しんけんな顔でおれをじっと見た。
「おれ、らんまるくんのことが好きなんだ」
「えっ?」
「おれ、男の子が好きなの。男の子しか好きになれないの」
映画やドラマで見たことがある「こくはく」。でも、なんだかちがった。
かなしそうに泣くたくとくんを見ていられなくて、泣き止んでほしいのもあってぎゅっと抱きしめた。
「らんまる…くん」
ああ、これがまちがいだったのかもしれない……
からだをはなすと、もう一度キスをされた。
たくとくんは、想いがつうじたと思ってしまったんだ。
でもね、たくとくん。
おれには、たくとくんしかいないんだ。
すごくうれしそうな顔をして、おれのとなりを歩くたくとくんは、もう泣いてなんかいなかった。
それだけでおれもうれしくなった。
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いじめられっこだった蘭丸くん、そんな蘭丸くんを庇う拓人くん。
あんま見かけないから増えてほしいです、これ切実。
9月3日は拓蘭の日!