イナズマイレブン

□ユートピア 共存
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  二人の間には見えない線がある。
  向こうの世界、こちらの世界
  お互い知り得ない異なる世界。


 服もシーツも邪魔で、全部取っぱらったベッドの上で尻込みする一人の男。こいつ、引け腰、似合わない。這い寄って足を撫で、べろりと腿を舐めると大げさにびくりと震えた。
「はじめて?こわい?」
 頷くだけの反応が、この前ヤッた女を思い出す。すっげぇマグロ女で、正直オナニーと変わらなかったかな。
「大和キャプテン?」
 触ってみると、勃っていた。どこに興奮しているのか気になるところだ。
 ためらうことなく裏筋に舌を這わす。
「っぁ、あ…!」
 恥ずかしそうな申し訳なさそうな声。ぎゅっと萎縮する体。
「他人(ひと)にしてもらったことないのか?」
 頷く。それを見て少し優越感に浸る。普段はあんな堂々として周りを引っ張る奴が、ベッドの上じゃ処女丸出しで震えてる。
 じゅるじゅるいわせて先走りを吸い取る。こいつよく出すなあ。ちょびっと塩からい。
「んっ……は、ぁ…」
「気持ちいいだろ?」
「そ、そんなこと……」
 この期に及んでまだ拒むなんて、苛立たしい。口を放して大和を一瞥する。大和は刺激が失われて間抜けた顔をしていた。俺は大和の膝を抱えあげて慣らしていない大和の肛門に自分のペニスをあてがう。
「な、なにす……ああ゛っ!」
「ん゛っ…!」
 いってぇぇ〜〜!!驚くほど狭い。男を抱いたことはないから比べられないが、処女の中より狭い。
 大和といったら、泣き始めた。初めて見る大和の泣き顔。もっと泣いてるところが見たくて、無理矢理中で動き出す。
「あ!!やめ、ろ!あっ、ああ…い、たいっ!」
 浅い呼吸をしながら嫌がって。痛いからなのか、ぼろぼろ涙は溢れるばかりで鼻もぐずつき始めている。
「いい顔すんな、大和」
 いつもヤッてるのと同じペースで大和の中を犯す。大和は泣いてばっかだが、いつのまにか嫌がらなくなって、萌えない声で喘ぐだけになった。
 血のにおいがするから、俺が入れたせいで切れたかな。痛いだろうな、俺は知らないが。
 テンポを変えてみる。亀頭ギリギリまで引き抜いて、一気に奥まで突く。
「ぁあ゛ぁうっ!」
「お」
 萌えた。今の声。これが好きだったのか。もう一度奥を突くと、大和は大きく仰け反る。
「きもちい?」
 もう一度聞いてみると、大和はうんと頷いた。浅い呼吸はそのままなのに、気付けば色っぽい声も聞こえてくるのだ。
 楽しいな。もうオルガスムを迎えてしまうのには惜しい。一度腰の動きを止めて、大和と唇を合わせる。舌を絡めて唇を甘噛みをする。首筋に噛み付くと大和はいい声をあげた。やばい、こいつ素質あるぞ。血が出そうになるまで噛んで、何個も歯形を残しながら思う。
 俺の萌える声が段々大和からたくさん聞けるようになった。
 褐色の腕が絡まってきて。筋肉質で、こいつが男だと思い出させた。いや、この際性別などどうでもいい。再び腰のピストン運動を始めると、大和の声がますます弾む。
「あ、あ…あっ!いき、た…い!!いく、っ!!」
 手で少し扱いてやると、大和は自分の顔まで精液を飛ばした。釣られて俺も大和の中で全部出した。
 達したあと独特の時間。大和はこんな顔をするのか。熱を出したみたいに赤くなったままの顔で、目も鼻も口元も汚して、白く濁った線が頬に伸びて。なんだか面白い。
 頬についた精を舐めてみる。火照って熱い。苦々しい精子が口に広がる。自分のも舐めたことがないからよく分からない味だ。
 目が合って、自然とくちづけを交わす。ピンクの髪に指を通す。毛先はぼさぼさなのに根元はさらさらで、綺麗。
「護巻…」
 口を離すと求めるように名前を呼ばれ、答える代わりに指で大和の唇に触れる。
 ベッドに腰掛け、蹴落としたシーツを拾い、大和の上に雑把にかける。サイドテーブルのランプをつけて、タバコをくわえる。
「…護巻、あのさ」
「何?」
 ライターはどこだっと……あったあった。
「俺のこと…どう思ってるんだ?」
「さぁ…分かんねぇ」
 好きか嫌いか。どうなんだろう。
「俺も……遊びなのか?」
 他の女みたいに?
「そうかもな」
 息を吐き出すように考えるよりも先にぽろりと言葉が零れた。見つけたライターでタバコに火を点ける。狭いホテルに白い煙が蔓延しはじめる。
「そう……」
「悲しい?」
「…分からない」
 我ながら嫌な質問をしてしまった。
 そんな風に泣かれたら分からないもなにも、ないだろ。

◆ ◆ ◆

「起きろ!!」
 形だけの副キャプテンを蹴飛ばす。長椅子に倒れて、護巻はよだれを拭きながら起きた。
「あれ〜夢だった…」
「夢?あとはおまえだけだから早く帰れ」
 鍵をくるくる回しながら寝呆けたままの護巻が帰るのを待つ。施錠を任される身にもなれ。
「まー、少しミーティングしないか?最近MFとFWの連携なってないぞ」
 一服したいだけなのは見え見えだ。護巻はバッグから出したタバコをくわえライターを探し始めた。
 連携がなってないのは俺も気になっていたので、しょうがないと隣に座る。座った俺を見て護巻はバッグを漁りながら嬉しそうに口を開いた。
「最近MFの状況判断が遅い」
「俺が指示を出せと」
「そろそろ一人で判断できるようにさせないとな。あったあった」
 隣からタバコの煙が流れてきた。去年から変わらないにおいだ。はじめは13歳で既に喫煙者な護巻と仲良くやれるのか心配だった。それも今じゃ悩みがあれば真っ先に相談相手になってもらうし、一番仲の良い友達だ。
 友達……
「はぁー今日の練習も疲れたー」
 吐き出した煙がぶわっとこちらに流れてきて思わずむせる。
「げほっ…ここ禁煙だぞ」
 友達というカテゴリーに当てはめるにはこいつは少し違う気がする。
「この前監督吸ってた」
 そういう問題じゃないだろ。と言いたいものの、自分の父親なので何も言い返せない。うつむくように、手にした鍵を見る。
「……同じ銘柄にしたら怒んない?」
「え?」
「だから、千宮路監督と同じにおい」
 護巻の方を見ると、じっと俺のことを見ていた。そいつは一気にタバコを吸うと、俺の頭を押さえてその煙を口に移してきた。
「あ」
 我に帰ったような護巻の声と、荷物を手にばたばた部屋から出ていく姿。
 ようやく止まった思考が動き出して、待てと口を開きかけたが、既にばたんと大きな音をたてて俺は一人部屋に取り残されていた。
 もわもわ白い煙が口から出てた。不思議とむせない。
 消えていく白を視界に捕らえながら。これだ、この気持ちだ。そう、すとんと心の中に答えが落ちてきた。
 長く護巻に対して友人と呼ぶのに疑問を抱いていたのは、きっと本当は恋心なのかもしれないと。なぜならそれは、何より先に

 嬉しい、と思ったから。

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