main story
□MY LOVE 8
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ムタは、トトを真剣な眼差しで、キッと仰ぎ見る。
トトは、その刺すようなムタの視線に気付く事なく、ぼそぼそ呟く。
「あんなにも全身全霊で愛し合う二人なのに……離れてゆく運命なんて……ああ、出会わないほうが本当に…良かったのかもしれない。」
「俺は絶対に、そうは思わない。」
強い口調、強い眼差しのムタが、トトを真っ直ぐ射抜く。
頭痛が走ったような感覚に、トトは面を上げる。
ゆっくり目を見開き、また目を細める。
空気を揺らす違和感に、背筋が伸びる。
「…………ムタ……君、想い人が…居るのか?」
見つめ合う。
互いの真意を、探りあう為。
ニヤリと口の端を上げて笑ったムタが、視線を合わせたままケーキの箱を引き寄せる。
「……ハル………アイツ、凄い奴だよな。」
トトは、目を細めた訝しげな表情のまま、呟く。
「彼女は…最初から何かが、全て…違っていた……」
ムタは箱を開けると、生クリームのホイップを作る為、ソファを立つ。
「俺達三人を、こうまで引っ掻き回して……一人、サッパリした顔して何事も無かったみてえに、帰って行きやがった…!」
喉の奥で皮肉を込めて笑いながら、トトに背を向ける。
トトは静かな眼差しで、ムタを観察する。
「全く、大した大物だぜ……あいつが来てからのココは、居心地悪くなっちまって仕方ねえよ!」
トトへ背を向けたまま、ムタはホイップクリームが入った棚の戸を開ける。
そのまま互いに何も言わず、ホイップをたてるボウルと泡立て器が衝突する金属音が小さく響く。
クリームが液状から、固体に変わる頃。ムタが、呟く。
「……俺とお前の二人だけだから、ホール半分も食えるぜ……やったな。あいつが喜ぶような茶なんて…俺には淹れられないし、飲んでられねえから……酒で食うぞ。」
その言葉に想い人を確信し、トトは目を見開く。
身体中に戦慄が駆け抜け、震えだす。
(何とゆう事だ……!何故……もっと早くに、気付いてやれなかったのだ…!!
叶わない、届かない愛を、誰にも気付かせずに……
揉み消そうと努力し、しかし、業火の如く燃え上がっていたのか…!?
ああ……ずっと…君は……気持ちを、大き過ぎる愛を押し込め…応援していたのか…!!)
トトは苦痛に顔が歪み、脂汗が滲む。
「…君………此処には、今は私しか居ないのだ……無理はしないほうがいい……」
トトの静かに発された言葉に、泡立てていた手を止め、ゆっくりとムタは振り向く。
「そうだな……無理はよくない………本当はよ!生クリームもいいが、クランベリーソースが良かったんだよ…」
トトは寂しげに笑うと、ムタも悲しく笑い返す。
ムタは笑顔を顔に貼り付けながら、ボウルをバロンのデスクに置くと、クランベリーの入った瓶を棚から取り出す。
トトは、無理に微笑むその横顔に、胸が押し潰される。
胸を抉られそうな痛みに耐えながら、トトは儚い笑顔で優しく呟く。
「本当の君は、情に厚い、素直な男だ…………彼女と…よく似ている。」