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□MY LOVE 10
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ラクロス部の部室前に着くと扉を開け放ち、ハルを引っ張りながら押し込む。



扉を閉めると、ひろみは溜息をつきながら全身を脱力させる。



(走ってんの、先生に見られたかな……?

まあ……この状態のハル見たら、分かってくれよって話…)



背中を丸めて、床を焦点の合わない瞳で見つめ続けるハル。



全身濡れて、泥だらけであった。



薄暗い部室の中、その姿に軽く恐怖を感じる程に。



一瞥するとそのままに、照明のスイッチを叩きながら点ける。



途端に明るくなる室内と同時に、切れかけた蛍光灯が明滅して天井を睨む。



壁面には、錆び付き、卒業生達が残した落書きやシールが貼ってある、綺麗とは言い難いロッカーが並ぶ。



早足で自分のロッカーに向かい、前に立つと拳を作る。



勢いを溜めて一回拳で叩き、力を入れて開ける。



扉と同じくらいに汚い、物が沢山詰まって整理されていないロッカーに、口を尖らせる。




(……あたし…あたしがバカなヤツだよ……人の事、全然とやかく言えない……)




丸めて適当にロッカーに放り込まれた、練習用の黒地に紫のラインが入ったジャージ上下を引っ張り出す。



比較的綺麗に畳まれた、ラクロス部の部員とお揃いで作った、紺色と白のボーダーポロシャツを取る。



タオルを探し、再び口を尖らせる。



唯一のバスタオルは押し込まれて皺が寄り、ハンドタオルは最早、行方が分からなかった。



仕方なく隣の友人のロッカー前で軽く手を合わせて、頭を勢いよく下げて、上げる。



恐る恐る、そっと開ける。



整理整頓され、ピンクの小物でまとめられた清潔なロッカー内に、また落ち込んでくる。



ピンクベージュ色のバスタオルを借りると、丁寧にロッカーを閉める。



「ありがと。」



ロッカーに向かい、小さくお礼を言う。





ハルに向き直ると、押し込まれた先程と同じ姿勢のまま、何事か、ぶつぶつと小声で呟いていた。



ひろみは、ハルの顔を改めてじっと見上げる。



泣き腫らした瞳を見開き、頭を左右に軽く振りながら呟いている。



顔は蒼白で、唇も青くなってきていた。



最近切ったばかりの短い髪は、グシャグシャに乱れきっていた。





(狂ってる………)
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