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□MY LOVE 14
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ハルは呆然と、館長の言葉を受ける。
バロンは言葉に切り刻まれたように、苦渋に歪んだ顔を片手で覆う。
「此方へ来て小さくなった身体ですが、元の大きさへ戻して人間界へ御返し致します。
男爵との一連の話の流れから、猫の図書館へ滞在されないようで残念ですが…
ハル様の幸福と夢を叶える事こそが、私の望み。
ドールタウンへ行かれた際の転居届、その他の面倒な諸手続き等は、当方が対処致します!」
快活に歯を見せて笑う館長から瞳を離さないまま、ハルは呟く。
「………彼女…は…?」
「彼女? それはどちらの方を、指し示していらっしゃるのですか?」
「バロン。 彼女いるのに。 私を好きって。 なに?」
バロンは顔に手を覆ったまま、ハルの問いに低い声で答える。
「……………居ない。
以前は居たが自然消滅として終わり、もう数十年も居ない。
私は………一人だ。 今までも、これからも……永遠に。」
「そうなんだ……… あはは…私一人で勘違いして…落ち込んじゃってた……
ねえ……でも、永遠にって…?」
「人形に…なるとは、君が想像しているより遥かに重い現実が待っている。
身体へ復旧出来ない程の激しい損傷でも負わない限りは、永久の命…無限に続く時間に苛まれるだけだ。
人形として生きるなどと言葉だけは愉快な響きだが、私達人形も日々の仕事と生活に追われ、対人関係など様々な事で悩み苦しむ…
それが永遠に繰り返し続いていく虚しさを………君にさせたくはない。」
「なんで?」
「何故だって? 話した事が全てだ。」
「永遠に一人って言った。 私はバロンが好きって言ったのに、なんでそうやって、勝手に答え出しちゃうの?」
「………ドールタウンへ来た人形達は、大きく二つに分けられる。
永遠に続く命と姿形を謳歌し、堪能する物。
永遠に生み出せない次世代に嘆き、友を作っても孤独を歩む物。」
ハルは首を傾げながら、バロンへ顔を向ける。
「……難しい言い方ばっかりで、よく分かんない…」
バロンは顔に覆った手を外し、本棚に有る本のタイトルを無意識に追いながら話す。
「………魂が宿った人形は、時を重ねても姿形は変わる事無く、そのままの形で永遠に生きる。
永遠の時と引き換えに、物に魂が宿っただけの、儚い存在の私達は………」
バロンはハルへ向き直る。
曇る瞳同士で対峙し合う。
「子を成す事の出来ない身体なのだ。」