main story

□MY LOVE 7
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バロンはまるで魅惑されたかのように、ハルから一切、瞳を逸らす事が出来なくなる。



まるで魅入られてしまったかのように、ハルの足下まで静かに歩いて来る。





(あっ、えっ? 近くまで来てくれた…!

でも心の準備が……どうしよ、えぇ〜〜!!

……わぁ…カッコいいな、相変わらず……

って、いやいや、落ち着きなよ自分!)



バロンは至近距離で、ハルへ憂いを帯びた瞳で見上げてくる。



ハルは軽くパニックに陥るが、振り切るかのように明るく話し出す。



「な……泣いちゃ、ダメだよね?

だって、ほら! 自分を見失わないようにね!」



ハルは手の甲で、頬に流れ落ちた涙を大雑把に拭う。



バロンを未だ少し赤い瞳のまま、無理に作った笑顔で見やる。





バロンは小さく息を呑む。



以前ハルに話した言葉が彼女の中で残っている事に、感動する。



背筋を伸ばし、右手を心臓の上に置く。



左手は腰に回すと薄く微笑む。



「……ありがとう…

覚えていて、実行してくれたのか。」





ハルは唐突に行われた優雅な感謝に驚いて、瞳を丸くする。



頭を音がしそうな程に、左右へ大きく振った。



「そっ! そんな、違う!

全っ然、ダメダメなんだよ? 

しょっちゅうボンヤリして見失ってばっかりだよ?

一応は分かってる…のに、あんまり実行に移せてないんだよね〜……ハァ……」



眉間に皺を軽く寄せながら、ハルは軽く溜息を吐く。





空気を揺らす。



全ての色すらも変えた錯覚を、バロンに覚えさせた。



薄く窄めた唇から吐かれた吐息が、小さな身体の全身に吹きかかる。



淡いオレンジの香りで包まれたような感触に顔を強張らせ、身体を硬直させる。





戸惑いながら、瞳から唇へと視線を泳がせる。



所々落ちかけながらも薄っすらと色付いている、光り輝いている唇を確認する。



至近距離の、今バロンのいる位置からでしか分からない程度の薄化粧。



動揺し、身体を硬直させたまま視線をハルの瞳へと、急いで戻す。



潤んだ丸い大きな瞳に、明け透けな意図を持って見詰められ、息が出来なくなる。



(……少々、冷静になる時間が必要だ。

駄目だ、このままでは。

ハルは……人間で、私は人形…で…駄目だ……)



胸に溜まった澱みを吐き出しながら、バロンは腕を脇に下ろして拳を握る。






(あんな小さな事に感謝してくれるなんて…
 
本当に……ステキな人だな…

…伝えたい……ちゃんと、言わせて下さい。)



ハルは謝意を伝える意を決し、姿勢を正す。



思いの強さに、自然と表情が引き締まった。




「……バロン、本当に、本当にごめんなさい。 そして、ありがとう。」



バロンは瞳を見張る。



「勝手に嫌われてるなんて誤解して……

猫の事務所に来たかったのに行けなかったから、私、避けられてるんだと思っちゃったの…」



バロンは、ハルの言葉が胸に刺さる。



逢わないようにと、ムタに意識して行動する様に指示していた自分を思い返す。



「でも、単なる変な誤解だった……疑ったりして、ごめんね?

あの……怒っちゃった?」



怒気による沈黙と勘違いしたハルは、心配そうに上目遣いで聞く。



「………いや。 考えていただけだ。 

ただ……君の言葉を、その言葉通りに…素直に受け止めようとしているだけだ。」



バロンは事実を言えない自分に激しい憤りを感じながら、努めて冷静に言う。



ハルは、その言葉に胸を締め付けられると、瞳を細める。



「……そして、本当に。 本当にありがとう……」



微かに震えている右手を、そっとバロンへと差し出す。




バロンは瞳を剥く。



自分に対するやり場の無い怒りさえも、その白い指先に吸い込まれていくような錯覚に陥る。



左手が無意識に、伸ばされていく。



己の小さな指が触れあう手前………



急速に我へ返る。






手を後方へと、空気を切り裂くかの様に身体を捻る。



勢い良く指先を避けるように腕を引くと、そのまま自身のベストを握り締める。




(……駄目だ! 

ハルへ触れては……

想いが、気持ちが…暴発してしまう…

愛を止められなくなる……!!)
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